大阪・北新地の『バー・リー』の早川恵一氏はアイラ島の民間親善大使のチーフを務めている。大使は全国に10名いるのだが、彼らは皆かつてはライバルで、さまざまなカクテル大会で戦い合ったトップバーテンダーたちばかりだ。
アイラ大使結成のいきさつはこうだ。大会で仲良くなった10名が、競技者としての活動を終えてひと息つき、皆でスコットランドへ旅をした。そこでボウモアのブランド・マネージャーだったジム・マッキュアン(現ブリックラディック生産責任者)と知り合い、彼からこう懇願された。
「日本の人たちにアイラのよさを伝えてくれ。そして将来はアイラのウイスキーだけでなく、すべてのウイスキーが素晴らしいことを伝えてくれ。そのために、君たちがまずアイラとの交流を深めることからはじめてくれないか」
10名はちょうどその頃、ウイスキーを店で扱うだけでなく、何かバーテンダーとして貢献できることはないかと思案していたところだった。ジム・マッキュアンの申し出に皆がすぐさま同意した。
日本に帰り、自分たちの店でアイラの自然や風土を語り、またウイスキーの素晴らしさを語りはじめた。アイラの小中学生と手紙のやり取りをしたり、向こうの消しゴムの質が悪いと知ると日本製をクリスマスプレゼントとして送ったりと、ささやかな活動をはじめた。それは地元の新聞にも紹介されるほど関心を持たれているが、活動はいたって地道で、ほほえましいものだ。はじめてから6年になろうとしている。
チーフを務める早川恵一氏とは懇意だが、その活動を一度も声高に語ったことがない。いつもさり気なく、ウイスキー談議の中に織り込む。立派である。敬服している。