北海道はスコットランドの風土に似ているが、とくに湿原のある霧の町釧路はその味わいが濃い。湿原をはるか見渡すと、グレンコーの渓谷から南に広がる風景を思い出させる。
昼間からそんな素朴で広大な自然を眺め、夜に松田啓一氏のバー『HANANOYA』を訪ねると、無性にウイスキーが飲みたくなる。
松田氏が控えるカウンターはちょっと味がある。埋もれた貝パールが点在するスウェーデン産の御影石だ。小さなパールが白く、またはピンクに輝いて、華やかでもあり妖し気でもある。
ここでじっくりとウイスキーを飲む。港町でもあるから、潮の香りのするアイラモルトがふさわしい。だがブレンデッドの名品、バランタインやジャパニーズの響といったまろやかなコクのあるウイスキーも合う。角を飲んでいる客もいて、なんだか嬉しくなる。
夜も更け、ウイスキーで満たされたグラスを傾けていると、まるで霧の中に佇むかのような密やかな時間が訪れる。そのまま夜霧の中にすべてが消え失せてしまいそうな気配だ。
釧路をイメージした松田氏のオリジナル・カクテルを愉しむのもいい。また客層を見て選曲されるBGMがとてもいい。フォークソング、カントリーからベンチャーズ、ビートルズといったものから最新の話題曲までが流れる。
松田氏は五十歳を越えた。この港町で15年以上もスタンダードなバーをやりつづけた地道で清浄な時の積み重ねが、店の空気を醸しつづけている。(写真/小西康夫)
HANANOYA
北海道釧路市川上町5-1 すえひろ五番街1階
Tel.0154-23-0381 18:00~1:30 日祝
チャージ¥1500、ウイスキー¥500~、カクテル¥800~
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