6/6 2005年ジャズＣＤランキング BEST5！ [ジャズ] All About

都会の猥雑さが編むダークレッドのタペストリー

■第１位：菊地成孔『南米のエリザベス・テーラー』

菊地成孔『南米のエリザベス・テーラー』
2005年5月発表。ＴＢＳ系テレビ「情熱大陸」出演以降、ジャズファン以外からも注目が集まる菊地成孔の、単独リーダー作としては２作目となるのが本作。ブエノスアイレスからの帰国後に制作した、南米とフレンチと日本が混合した怪しいエキゾチシズム漂う逸品。

ＴＢＳ系テレビ「情熱大陸」の出演以降、急激に注目度が高まっている菊地成孔。最初に、その経歴を簡単にさらってみよう。

1963年生まれ、双子座のAB型。85年にサキソフォン奏者としてプロデビュー後、山下洋輔グループなどに在籍。現在は「デートコースペンタゴン・ロイヤルガーデン（DCRPG）」での活動を中心に、ライブ活動ではスタイリッシュな独自の世界を展開している。

一方、著述家としての活躍にも注目が集まっており、音楽理論書では『憂鬱と官能を教えた学校』（河出書房新社、2004）、『東京大学のアルバート・アイラー』（メディア総合研究所、2005）において、20世紀後半に世界中のポピュラーミュージックシーンを席巻したバークリーメソッドを歴史的に位置づける作業を行い、『サイコロジカル・ボディブルース解凍』（白夜書房、2005）では、独自の格闘技観戦論を展開した。また、教育者としても、私塾「ペンギン大学」、映画美学校、東京大学教養学部非常勤講師などを努め、音楽家の卵だけでなく、幅広い層の若者からの支持を集めている。

「2005年のベスト5」を選ぶ作業は、「ジャズ史上に残る名盤ベスト5」を選ぶのとは根本的に異なると私は考えている。そこには「新しさ」あるいは「新鮮さ」といったパラメータを入れないわけにはいかないからである。

単純にクオリティという面でいえば、『南米のエリザベステイラー』を超える作品はいくつもあったと思う。当然のことだけれど、冒険をしなければある一定のクオリティを保つのは簡単だからだ。しかし、冒険なきアートは、クオリティがいかに高くとも、本質的なところで人の心を動かす力に欠けるケースが多い。

私なりに菊地の魅力を上げてみるなら、それはよく指摘される「スタイリッシュ」といった形容詞とは対極にあるような、キッチュさや悪ふざけ、そして薄汚さ（アーシーさ）といった要素にある。本作『南米のエリザベステイラー』は、徹底してそうした猥雑さによって編みこまれたタペストリーであり、そのジャケット同様、ダークレッドの危うさ、怪しさに満ちている。

ただ、矛盾することを言うようだが、この作品を2005年のベスト１に押す最大の理由は、ＣＤアルバムとしてのクオリティの高さによる。ＣＤ、あるいはレコードという媒体の性質を知り尽くした菊地とスタッフによる「ＣＤ制作現場」は、例えば2位にあげた『Spiral』での上原の「録音現場」とはまったく異質なものだろう。

おそらくそこにliveはない。けれど、できあがったＣＤには、確かなliveがある。冒険を単なる自己満足に終わらせず、命なき録音に命を吹き込む。そういう、アーティスト・菊地成孔の「力」を再確認した作品である。

●曲目リスト
1.ラウンジ・タイム#1
2.京マチ子の夜
3.The Look of Love
4.ホルヘ・ルイス・ボルヘス
5.パリのエリザベス・テイラー (存在しない)
6.南米のエリザベス・テイラー
7.ラウンジタイム#2
8.ラウンジタイム#3
9.コルコヴァード
10.ルペ・ベレスの葬儀
11.クレイジー・ヒー・コールズ・ミー
12.南米のエリザベス・テイラーの歌

■菊地成孔(sx)の最新情報はオフィシャルサイトでチェック！
菊地成孔officialsite

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