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靴に使う「牛革」を深く考えてみる その3D(3ページ目)

今回の「メンズシューズ基礎徹底講座」も、引き続き鞣した後の革の加工のうち、起毛させた革を採り上げます。こちらも名称が曖昧に用いられている傾向にありますが、要はどの部分を起毛したかが肝心なのです!

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

銀面を起毛させるヌバック!

ヌバック
サラッとした感触が特徴のヌバックは、バックスキンの質感を目指して牛革の銀面を起毛させたものです。以前は春夏向けの淡色のものが多かったのですが、近年ではスエード的な濃色のものも増えています。


製造のプロセスの違いにより、起毛系の革ではもう一つ別のものが存在します。皮を鞣した後、肉面ではなくてその銀面を起毛させて仕上げた革で、「ヌバック」と呼ばれるものです。今日では昔より遥かに、遥かに貴重となってしまい既製靴ではまず見ることができない、牡鹿の銀面を同様に起毛させた「バックスキン(Buckskin)」をイメージし、その語頭に「新しい」の意味を付けたのが呼称の起源です。

肉面に比べれば明らかにツルツルな銀面ですので、「起毛」と言うよりも「均質に削る」と表現した方が適切かもしれません。それゆえ質感は、スエードよりも更に毛足が短く、キメも細かくなる傾向が強いです。スエードがフワッとした温かみのある肌触りと申すべきなら、こちらはマットでサラッとした感触になるのが特徴で、あくまでイメージですが、スエードが「森林」ならヌバックは「砂浜」。

だからでしょうか、ヌバックは欧米では本来春夏向けの素材と見なされ、靴のアッパーに用いられる色も、白やベージュそれに淡い水色など淡色系のものが永年主流でした。それに対して、スエードは本来秋冬向けの濃色主体の起毛革とこれまで考えられていた訳ですが、どうも近年はこの境目が段々無くなりつつあるようで、焦げ茶や黒のヌバックをアッパーに用いた紳士靴も、随分増えています。地球温暖化の影響か何かで、季節感をかつてほど色で表現しなくても構わない世の中になってしまったから? それとも単に、ヌバックの持つ「深刻過ぎない起毛感」が時流に合っているから? その理由は様々な要因が絡んでいそうです。

近年ではタンナーの技術革新もあって、ヌバックの質感に近いスエードとか、その逆のスエードの質感に近いヌバックも登場しているので、一層面白くもあり難しくもあります。敢えて見分け方を申し上げるとしたら、起毛していても毛穴など革の地肌がなんとなく感じられるようでしたら、それはヌバックと考えていいかな? ただし最初のページにも書いた通り、どれであってもお手入れの方法は変化ありませんので、その点はご安心願います。また、どれも「細かい起毛」のお陰で撥水性は意外とあるものの、粒子が粗くて起毛面に定着しないため顔料が着色には使えず、それを染料のみで行わざるを得ないので、他の革に比べ色落ち・色ムラを起こしやすい事も、知っておいて損はありませんよ!



【「メンズシューズ基礎徹底講座」・関連リンク】
靴に使う「牛革」を深く考えてみる その1
靴に使う「牛革」を深く考えてみる その2
靴に使う「牛革」を深く考えてみる その3A
靴に使う「牛革」を深く考えてみる その3B
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履けない靴を買わないための心得、前編
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なお、お手入れ全般についてはこちらへ!
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