靴紐の選び方……靴紐は機能だけでなく「意思」も表せる大切なパーツ

靴紐の選び方:ロブパリのガルニエ靴紐

ジョン・ロブ(パリ)の内羽根式プレーントウ ・Garnier(ガルニエ)に、かつてスペアで付いていたリボン状の靴紐です。日本人にはまず想像が付かない、靴の歴史が長いヨーロッパのブランドらしいセンスです。

以前は、靴紐には靴に応じた様々な長さがあって、素材も案外色々あるのだ、と言う話を致しました。ファッション誌などで靴紐を採り上げても、特に素材はほとんど触れられない領域なので、綿製だけでなく絹製で、しかも普段使いできるものがあるのに驚いた方もいらっしゃるでしょう。老舗の靴屋さんなら扱っている可能性がありますし、前述したとおり小生が知る限りでは、国産のものなら500円でお釣りが来ますから、関心のある方はどうぞお試しあれ!

で、本題に戻る前にオマケ。上の写真の靴紐は、かつてGarnier(ガルニエ)と言う名のジョン・ロブ(パリ)の内羽根式プレーントウに、それこそオマケで付いていた絹製の靴紐です(現行品のGarnier2には残念ながら付属していません)。いや、ハッキリ申して紐ではなく、トウ・シューズのそれや古の宮廷履きを彷彿とさせるリボンです! この靴はパリにある旧オペラ座の通称から命名されたものなので、本来の用途も推して知るべしで、確かにディナージャケット(タキシード)の足元にこの靴紐を通してバレエやオペラ、それにクラッシック音楽のコンサート等に出向けば、雰囲気が盛り上がらない筈ありません。 その容姿から普段使いこそ全くできませんが、たかが小さなパーツながらも履き手の「意思」とか「ことば」を十分表現できる素晴らしき一例として、ここに載せておきます。
   

丸紐? 平紐? 靴紐の選び方のポイントとは

丸紐 VS 平紐
靴紐の違いが一番顕著に出るのが、その断面形状です。丸紐にも平紐にも、それぞれ良い点があります。足と靴との相性や用途によって選び分けて下さい。
靴紐を選ぶ際に違いが一番明確に解るもの、それは恐らく「断面形状」の違いでしょう。靴紐の「幅」は一般的には、細いものから太いものになるに従い、安定感が増すと同時にカジュアル感も増すと考えていただいて構いません(前ページの靴紐のような例外も多くあります)。ただ、同じ幅のものでもその形状が異なると、靴に通した時の全体的な印象だけでなく、履き心地も微妙に変化して来るのも事実です。

一般的なのは、写真では向かって左側のような丸紐でしょう。鳩目の部分を「線」として押さえるので、要所要所にメリハリを付けてホールドする感覚が得られるのが特徴で、紐の表面・裏面を気にせず靴に通せるのも便利な点です。どちらかと申せば、柔らかい締め付けがお好きな方に向いた靴紐と言えるでしょうし、靴で申せば、自分の足のそれに対して小さ目の甲部を持つ靴に、また様々な足に最大多数の最大幸福的な履き心地をもたらすのが使命の既製靴に向いているのかな?

一方向かって右側のような平紐も、使い方を覚えてしまうと手放せない存在になること必至です。その表面と裏面を意識しながら靴に通さなくてはいけないのが面倒ではあるのですが、こちらは鳩目の部分を「面」として押さえるので、全体的にドーンとホールドする感覚が得られるのが特徴です。なのでこちらは、硬めの締め付けがお好きな方に向いた靴紐でしょうし、靴の側から見ると、自分の足のそれに対して大き目の甲部を持つ靴に、また特定の足にのみ完璧な履き心地をもたらすのが使命の誂えの靴に向いているのかな?

実際、ビスポークの靴には、上記の理由だからか平紐が付いている場合が多いです。ただ、どっちがエライか? とか、ましてやどちらがエレガントか? とかって言う抽象的な比較は、ちょっと不毛な気がします。あくまで自分の足と靴との相性や用途に合わせて選んでいただくのが、やはり最善だと思いますよ。
 

表面加工の違いにも注意して選ぶと◎

ガス VS 蝋引き VS 石目
靴紐の加工方法でも、その特徴に大きな差が出てきます。結び易いガス紐、耐久性抜群の蝋引き紐、クッション性に富んだ編み紐…… 使い心地の違いは、その見え方以上です。
「原材料」「断面形状」だけでなく、靴紐の性質を決めてしまう要素で忘れてはならないものに、「表面加工」の違いも挙げられます。言わばこれ、味付けの仕方の違いでして、プレーンなものもあり濃いものもあり、靴紐の機能として何を最優先させるかで加工方法に差が表れると考えていただいて結構です。ご想像に難くないと思いますが、ここも各靴メーカーやブランドの特徴が出やすい個所です。

写真向かって左は、ガスと呼ばれる最も一般的なもの。名前の由来は恐らく、ガスの炎や電熱を通すことで糸の微小な毛羽を焼き、光沢を出し手触りも向上させた通称「ガス糸」を用いている点から来たと思われます。表面が平滑な分(実際は表面に僅かにシリコーン樹脂等を塗っている場合が多いです)、耐久性は若干劣るものの、結びやすさの点では明らかに利がある加工方法です。

真ん中のものは蝋引きと呼ばれるもので、その名の通り表面が蝋やシリコーン樹脂でしっかり覆われた紐です。その加工特性上しなやかさには欠けるため、結びやすさの点では正直劣りますが、耐久性は抜群で、中にはピンと伸ばすと針金のように立たせて持つことができるもののあるほどです。オールデンやアレン・エドモンズ等アメリカの靴メーカーは総じて、細身の靴紐にこの加工を施すのが大好きなようです。

最後に向かって右側、これは厳密には加工と申すよりは作り方なのですが、編みとか石目と呼ばれるものもございます。ご覧のとおりニット状に編まれている紐なので、ややカジュアルな印象が出るものの、他の2つに比べて伸縮性に優れ、足のコンディションの変化に対応しやすいのが特徴です。読者の皆さんがご存じのところでは、銀座ヨシノヤの九分仕立ての靴が以前からこれを採用しています。
 

靴紐の特徴を知った上で付け替えるのが通!

もともとの靴紐
この靴のもともと付いていたのは、ご覧のような細い編み丸紐。それはそれで、靴の細さを引き立てるのに大いに効果があるのですが……
色や太さだけでなく、今まで採り上げた「長さ」「原材料」「断面形状」それに「表面加工」の4要素が様々に組み合わさり、世の中には沢山の種類の靴紐が出回っています。具体的には
・65cmの絹のガス細平紐で黒
・75cmの綿の蝋引き太丸紐でこげ茶
のような呼び方で、メーカーの純正であれ専門業者オリジナルのものであれ、靴店や百貨店、それに東急ハンズのようなところで当たり前のように売られている訳です。消耗したら原則同様のものと交換するのが無難なのですが、ここまで知っていれば靴全体の表情や着用感を、靴紐でより自分の好みにアレンジすることも可能になります。具体例として、上下の写真をご覧いただければと思います。

SCOTCH GRAINのこの靴に当初付いていたのは、上の写真のような細い編み丸紐。大変締め易く、また靴全体から出てくる細面な印象を引き立たせるのにも一役買っていて、このメーカーらしい極めて真っ当かつ堅実な選択だと思います。ただ個人的には、靴自体は足にバッチリ合っているものの、小生の体格と性格ではちょっと繊細過ぎるような感も正直あったので、下の写真のように靴紐を同色でオリジナルより気持ち太いガス平紐に代えてみました。その結果、甲周りの表情に抑揚が付いたせいか、見た目に安定感が増しているのがお解りいただけるでしょう。

まあ、これはあくまで「錯覚」を活用したもの。でも靴紐が面で押さえる平紐になりしかも若干太くなった分、鳩目周りの抑えが更に効くようになったのは紛れもない事実で、着用感も一層良くなっています。もちろんこの逆のケース、つまり平紐→丸紐のような付け替えが有効な場合だって多々ありますよ。今履いている靴が見た目にちょっと飽きてしまったけれど、足には快適なのでまだまだ長く使いたいなぁと思っていらっしゃる方、こんな手で心理的にも、そして実際にも寿命を延ばせますのでご参考までに!

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