サイドゴアブーツは、その密着感が魅力!

サイドゴアブーツとは?誕生の歴史や意味、メンズ着こなし術

エドワード グリーンのサイドゴアブーツ「ニューマーケット」です。スムースレザーの黒でかつソールのコバもあまり張り出していないので、このスタイルの誕生当時の高貴なイメージが色濃く残っていると申してよい一足。ダークスーツ姿でもどうにか履けます。
 

今回は、サイドゴアブーツを採り上げます。くるぶし周りをピタッと押さえるのが特徴のこの靴ですが、これがまた歴史の変遷を経て別の名称や用途が沢山生まれた奥深い世界なのです!ですので今回も、まずはその辺りを整理しながら話を進めてまいります。
 

サイドゴアブーツはその歴史と共に、名前や用途が変化してきた

サイドゴアブーツ(Side Gore Boots)とはその名の通り、足の内外双方のくるぶしの周辺に“Gore”、つまり「マチ」が施されたアンクル~ショート丈のブーツのことを指します。この「マチ」は通常、ゴムを織り込んだ伸縮性のある生地でできていて、靴紐やストラップ・バックルの代わりに施されるわけです。

このアイデアは、1830年代中盤にイギリス・ロンドンの靴屋が、当時即位したばかりのヴィクトリア女王のために、脱ぎ履きが容易でフィット感の得やすいブーツを作るべく採り入れたのが始まりです。

そう、このブーツの起源はメンズではなくレディース!でも、この魅力にすっかり虜になったのはヴィクトリア女王以上に、彼女の夫君・アルバート公でした。ドイツ出身らしく合理的思考の持ち主だった彼が、この活動的な靴をイギリス議会への登院時に用い始めたことから「アルバートブーツ(Albert Boots)」(ただしこの名称は、外くるぶし前方に鳩目を施したレースアップブーツに用いる場合もあります)の別名が生まれます。

今でこそあまり考えられませんが、当初はフォーマルな位置付けのブーツでした。我が国でも、明治時代から第二次大戦前まで、一部の礼装用にこの靴が用いられていた事例から見ても、それが証明できるかと思います。確か昭和天皇もこの靴がお気に入りだったはず。

こうして、1840年代後半から次第に普及していったこの靴ですが、第一次大戦後から暫くの間は街中からはあまり見られなくなりました。その一方で、ゴム製のゴアのお陰でくるぶし周りをピタッと覆える特性から、前述したように主に一部の礼装か乗馬の際に用いられることになります。

そのため、結果的に「ジョッパーブーツ(Jodhpur Boots)」の名が混用されてしまうことになったのは、以前の記事(参考:乗馬しなくても履きたい、ジョッパーブーツ)でお話した通り。確かにその構造上、小石等が靴の中に不用意に入らないので、馬に乗る時の「ジョッパーズの下に履く・履けるブーツ」としても合目的的に重宝しないはず、ありません!

脱ぎ履きしやすく活動的で、しかも、スリムな表情も併せ持つこの靴が、街中で再び脚光を浴びるようになったのは、1960年代に入ってから。モッズやビートルズ、それにローリングストーンズ等に代表されるスウィンギングロンドンムーブメントの核となるブーツとして。

特に、ヒールの高さを5~6cmとメンズとしてはかなり高くした通称「キューバンヒール(※)」仕様にしたものが、若い男性だけでなく女性にも大人気となったのです。このムーブメントの影響は甚だ大きく、以後この靴はその中心地の一つだったエリアに因み「チェルシーブーツ(Chelsea Boots)」の名でも呼ばれるようになり、ヒールの形状や高さはともかく、現在ではこのスタイルをこう呼ぶのが世界的には最も一般的なようです。

※キューバンヒール(Cuban Heel):ライディングヒールとも呼ばれ、主にカウボーイブーツなどに装着されるヒールです。乗馬時に用いる鐙に足を確実に固定させるため、ソールと繋がる前方部は弧状ではなく垂直状で、後方部は上部から底面に向かい微妙に先細りするのが特徴です。高さも約5~6cmと一般的なメンズのドレスシューズの約2倍あるため、形状とも相まって脚が長く見える効果があります。
こちらはトリッカーズのサイドゴアブーツです。アッパーは同じ黒のスムースカーフですが、底がダブルソールになりその端にストームウェルトが縁取られただけで、前ページのエドワード グリーンのものと雰囲気が一転。こちらはグレー系の分厚いツイードジャケットとかに合わせたい!

こちらはトリッカーズのサイドゴアブーツです。アッパーは同じ黒のスムースカーフですが、底がダブルソールになりその端にストームウェルトが縁取られただけで、前ページのエドワード グリーンのものと雰囲気が一転。こちらはグレー系の分厚いツイードジャケットとかに合わせたい!
 

サイドゴアブーツのメンズコーデ・着こなし術は変幻自在!

フルブローグ(参考:躍動、迫力、フルブローグ)やビートルズのご愛用だった、甲からつま先にかけて長いステッチが施されたモノも稀に見かけますが、このサイドゴアブーツはアッパーに特に何も飾りがないプレーントゥ(参考:プレーントゥをビジネスシーンで履くには内羽根?外羽根?)である場合がほとんどです。

そのようなシンプルな容姿もあってか、合わせる服をあまり選ばず、またブーツとしては例外的に脱ぎ履きが極めて容易で、ゴム製のゴアが劣化しない限りはフィット感も容易に得られるので(そのゴアも大抵の場合交換可能です)、一度履き慣れてしまうと他のスタイルに浮気しない・できなくなる方が多いというのも納得です。

また旅用、特に飛行機での長距離移動の際には持ってこい。ちょっとお行儀は良くないですが、機内では原則脱いでくつろぎ、トイレに行くときだけサッと履くみたいな使い方ができると、狭いエコノミーシートだって多少は快適に過ごせます。

アッパーの色と素材さえ注意すれば、それこそダークスーツ姿にだってシレッと合わせるのも、ジョッパーブーツと同じか、いやそれより遥かに簡単!トラウザーズの裾でくるぶしの部分はどうにか隠せますし、20世紀前中盤までは礼装にも問題なく合わせていたのですから、これも当然と言えば当然なわけです。さすがに1960年代前半通りとまではいかなくても、ややスリム目なスーツやジャケット&トラウザーズスタイルには非常に似合う気が致します。
その歴史経緯上、スーツにも結構似合ってしまうサイドゴアブーツですが、カジュアルなキルティングジャケット等とも相性が良好です。一度使い方のツボを心得てしまうと、この靴しか履けなくなる恐ろしい存在でもあります。

その歴史経緯上、スーツにも結構似合ってしまうサイドゴアブーツですが、カジュアルなキルティングジャケット等とも相性が良好です。一度使い方のツボを心得てしまうと、この靴しか履けなくなる恐ろしい存在でもあります。

もちろんカジュアルウェアにも適用範囲が広いブーツでして、今日個人的に特に相性の良さを感じるのは、1990年代後半から街着のアウターとしてもすっかり定着したナイロン製の「キルティングジャケット」でしょうか。

こちらはもともと、イギリスに移住した退役アメリカ軍人が趣味の狩猟の際「より軽く、より暖かく、より活動的に着れる」ことを目標に1960年代初めに開発したもの。乗馬の時にも都合が良いとして、1970年前後から用途が広がったもので、馬絡みで使われ方が転化したと言う点では、このサイドゴアブーツと全く同じなのです。

それもあってか、このジャケットには付きもののコーデュロイの襟(元来は襟も共地のナイロンキルティングでしたが)と、このブーツのゴム製のゴアとの素材感は、不思議と共鳴するのですよ。

ひとつ前の時代のカジュアルがフォーマルなものに昇格してゆくのが、装いの歴史の常套パターンですが、このサイドゴアブーツは、その逆を歩んだと申しても差し支えない例外的な存在です。使い方次第で表情が思いっきり化けてくれるこの靴、どうか上手に活用してみて下さい!

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