世界の箱ガメたち
どうやって「フタをして箱のようになる」のかは後で詳しくお話しするものとして、世界中にはどんな「箱ガメ」たちがいるのかをおさらいしてみましょう。まず名前も「ハコガメ」であるのが、先述したイシガメ科のアジアハコガメ属(オカハコガメ属を含む)の仲間たちです。マレーハコガメ、セマルハコガメ、モエギハコガメ、コガネハコガメなどです。またヒラセガメやムツイタガメ、マルガメなどもやや未発達ではありますが、フタをすることができます。
またヌマガメ科ではアメリカハコガメ属の仲間たちも「ハコガメ」です。カロリナハコガメの亜種たちやニシキハコガメが該当します。またヌマガメ科には他にもブランディングガメやヨーロッパヌマガメなど、未発達ながらもフタができる箱ガメがいます。
また人気の曲頚類にも箱ガメの大きなグループがあります。それがアフリカに住むハコヨコクビガメ属のカメたちです。お気づきのように「箱」ヨコクビガメなんですね。クリイロハコヨコクビガメを代表にしてトゥルカナハコヨコクビガメとかウペンバハコヨコクビガメとか。
ご存じのように、曲頚類は首を中に引っ込めるのではなく、横に曲げるわけですから、フタをしてしまうとさぞかし苦しい姿勢になりそうな気がするんですが。
意外に知られていないのがドロガメ属のカメです。ドロガメ属のうちキイロドロガメなど数種はかなり立派にフタをして「箱ガメ」になります。
さらに「箱」というよりも「どら焼き」みたいな感じなんですが、スッポン科のハコスッポン属やフタスッポン属などはフタをすることができます。オーブリーフタスッポンで知られるクビスジフタスッポン属もフタをできるスッポンです。
最後は、リクガメを見てみましょう。
リクガメの仲間の「箱ガメ」は水生ガメとはちょっと違います。後述しますがホームセオレガメやベルセオレガメなどのセオレガメ属は「箱ガメ」と言っても良いかもしれません。
どうやって「箱」になるのか
さて、では「フタをする」というのはどういうことなのでしょう。もちろん、カメというのは背中に大きくて丈夫な甲羅(背甲)を背負い、また腹側にも丈夫な甲羅(腹甲)があります。この背甲と腹甲は両脇でつながっていて、前後はつながっていません。つながっていない場所の前方を使って頭部と前肢、後方から尾と後肢を出したり引っ込めたりします。
多くの「箱ガメ」は、この背甲と腹甲がつながっていない場所を、腹甲を動かすことによって閉じることができるのです。
そもそもカメの腹甲や背甲というのはどのようにしてできているのでしょう。
実はカメの甲羅は「三重構造」になっています。つまりもっとも内側には肋骨と脊椎骨が、そしてそれに支えられるように骨甲板という骨でできた甲羅があり、その外側を皮膚が硬くなったような構造、人間で例えるならば「爪」のような構造である角質甲板が覆っています。私たちが目にするカメの甲羅は角質甲板ということになります。
要するに、「肋骨や脊椎骨」で「骨甲板」を支え、それを「角質甲板」が覆っているという三重構造というわけです。
ところが、骨甲板や角質甲板はいくつかの「甲板」という部品が組み合わさってできていますので、そのままでは強度不足になります。そこで、骨甲板と角質甲板の各甲板の「継ぎ目」をずらすという工夫がなされています。継ぎ目が一致してしまったら、そこが脆弱になってしまいますから。
賢明なるみなさんはもうおわかりでしょう。多くの箱ガメたちは、この骨甲板と角質甲板の「継ぎ目」が一致している場所があるため、そこが動くようになっているのです。つまり強度を犠牲にすることで、もっとも重要な頭部や四肢を完全にしまい込むという作戦に出たわけです。
ただし、これはどの箱ガメにも共通していることではなく、必ずしも継ぎ目が一致しているとは限りません。単に甲板が持つ弾力で可動式になっている場合もあるようですが、それでも一致している方が可動性が大きいようです。
この可動部分は、簡単に言えばアキレス腱のような結合組織でつながっていて、一般にはヒンジ(蝶つがい)と呼ばれています。これを利用して、腹甲の可動部分を作り頭部や四肢、尾を引っ込めた時に「フタ」をして保護しているわけです。