世界遺産/未来の世界遺産

未来の世界遺産6 生死の境・聖地ベナレス(6ページ目)

三島由紀夫、遠藤周作、沢木耕太郎はじめ世界中の作家に影響を与えた生と死の街ベナレス(バラナシ)。旅人に「世界でもっとも衝撃的だった場所は?」と尋ねると必ず1位にあがるインドの永遠の聖地へご案内!

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

死を待つ人々と火葬場

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カーリー像
街のあちこちにこのような神像が置かれている。写真手前はシヴァ神を踏みつけるカーリー像、奥には象の頭を持つガネーシャ像も見える。


ガートのうちのふたつ、マニカルニカー・ガートとハリスチャンドラ・ガートには火葬場がある。

ヒンドゥー教徒たちは墓を作らない。健康な成人はガンガーで清められたのち火葬場で燃やされ、遺灰はガンガーに流される。遺体は3時間後前後かけて焼かれていく。布に覆われた遺体が焼けて、焦げ、燃え、煙となって空に帰り、やがてガンガーに流されていく3時間ほどの様子をずっと眺めていることができる(撮影厳禁)。

この火葬場の隣には死を待つ人の家=ムクティ・バワン(モモクシ・バハン)がある。静かに死を待つ彼らはここを死に場所に選び、ただひたすら死を待っている。彼らはビルに旅行者が入ってきてももう気にもとめることがない。それも火葬場の日常風景だ。

貧乏人や子供、ある種の事故や病気で亡くなった人、妊婦などはそのままガンガーに沈められる。河岸にはたまに彼らの遺体が浮いてくるが、遺体に意味を見ないベナレスでは特に問題はない。またベナレスでは火葬場までたどり着けず、行き倒れになる人も多い。死が日常であるという当たり前の事実をこれほど感じる街はない。

私も火葬場で人の身体が燃えていく様子を眺め、川から浮いた強烈な腐臭を放つ遺体を見た。自分もまた生死の境にいるのだと、これほど実感する時間はなかった。

ベナレスで覆る価値観は次のページへ。
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