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ウイスキー&バー/初心者のためのウイスキー入門記事

クラフトとは何か/ウイスキーのクラフト感を見つめる

クラフトビールがアメリカでブームになって以来、ウイスキー業界にもクラフトディスティラリーがたくさん登場し、またいまではクラフトジンが世界的な人気となっている。ところで、クラフトっていったいなんだろう。わかっているような気にはなっているが、さてさて。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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クラフトは規模感では語れない

 
鳥井信治郎

鳥井信治郎

クラフトビールが注目されてから後、ウイスキーをはじめとした蒸溜酒においてもクラフト製品が続々と登場してきた。現在はクラフトジンが世界的な注目を浴びている。
では、そもそも酒類業界で言うクラフトとは何か。このウイスキー&バーのこれまでの記事の中にも、クラフトというワードはかなり登場させている。ここであらためてわたしの考え方を整理しておこうと思う。
定義に収めようとして、小規模、独立資本、つくりの伝統性、革新的なオリジナリティなどさまざま言葉を当てはめて語るのは容易だが、ビジネスとしてこれらすべてを永続させるには無理があるだろう。
一般的なイメージとしては少量生産の手づくり感があるはずだ。とはいえ大衆的な嗜好品の場合、いくらクラフトマンシップを発揮しようが希少価値を期待されてしまうと生産者はビジネスとして成り立たなくなってしまう。
またクラフトビール・ブームをもたらしたアメリカの醸造所の規模を知ったならば日本人は驚くはずだ。日本の地ビールのイメージ、生産規模とはまったく違う。どうみてもアメリカの多くのクラフトビールは、でっかいビール工場でつくられているとしか思えない。
酒の定義や法的規制、酒税法、そして文化など各国で異なるから、クラフトを規模感で括るのは困難である。まだウイスキーやジンといった蒸溜酒のほうが一般的なクラフトのイメージに近い。
私感を述べると、クラフトと名乗るならば、香味の理想を追求する職人やつくり手側の思想、哲学が明確に語られているかどうか。それが重要だと思う。小規模でただウイスキーをつくるってことならば、金と暇さえあればできる。
さらにはメジャーブランドにこそ、しっかりと語ることのできるクラフト思想がある。しかしながらいざ人気となりロングセラーになると、つくり手側が技を継承するのはもちろん、スピリッツを語りつづけていかない限り、飲み手の気持ちからはそんな想いは希薄になってしまうのだ。
メジャーブランドのすべての製品につくり手の想い、クラフトマンシップは存在するのにも関わらず、高価な限定品のほうがクラフト感は増すのである。
 

安心感、安定感を生むのもクラフトマンシップ

 
角ハイボール缶350ml

角ハイボール缶350ml

80年以上もの歴史を積み重ねているウイスキー「角瓶」(1937年発売)は、鳥井信治郎という男が生み出したものだ。2017年秋の記事『角瓶80周年をハイボールで祝おう。さあ10月8日』でも語ったが、ウイスキーの需要などまったくない時代に日本人の舌に合う、世界に誇れるウイスキーの香味を追求して誕生したものだ。「角瓶」の成功があったからこそ、いまの日本のウイスキー興隆への道が開けたといえるだろうし、そこには明確なクラフトの思想があった。
戦前の誕生時から戦後しばらくの間は高価な贅沢品であった。年月を重ねて熟成感のある原酒が多彩に揃っていくと、「角瓶」の上を行くより高品質なウイスキーがつくられるようになる。すると、時代とともにポジショニングはザ・大衆ウイスキーへと変化する。
激動のなかで日本でのウイスキーNo.1販売量を誇るようになり、角ハイボールが酒場でナショナルドリンク的に飲まれるシーンが当たり前になると、つくり手の思想とか哲学なんてものはどうでもよくなるのである。飲み手にとっては「角瓶」は“おいしくて、飲みやすい”という安心感、安定感が重要になってくる。
「角ハイボール缶」も人気が高く、“旨けりゃ、いいじゃん”なのだ。消費者にとってはそれが最も重要なことなのである。
ただし、80年以上も前に日本人に愛される、日本のウイスキーの香味を追求しながら生みだした鳥井信治郎にとっては、いまの姿が理想とするシーンだった訳で、めでたし、ということなのだ。
そして安心感、安定感のある香味というのもクラフトマンシップなくしてはあり得ない。(2ページ目へつづく)
 
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