フレンチ人気店のオヤジシェフ達の今!

料理人が何十年も料理人であり続けることは簡単そうで難しい。「職人」の世界は皆そうかもしれない。私が意識してフランス料理を食べ始めた90年代後半は空前のワインブームが始まっていた。97年秋発売のBRUTUSは3号連続のワイン特集はすべて完売と聞いた。お洒落なレストランが増えてきて、料理とワインを合わせて楽しむスタイルが始まった時代だ。インターネットも普及し始めたが、レストランガイドはごくわずかしかなかったので緻密な口コミ情報がすべてだった。
名物フレンチシェフ達の確かな一皿

名物フレンチシェフ達の確かな一皿

今回ご紹介するシェフ4人は90年代後半より、東京でのフレンチ拡大期において第一線の人気店を切り盛りした実力者。その後、幾多の苦難に揉まれ、一旦は姿を消したと言っていいかもしれない。しかし、自ら機会を創り出し、現在も厨房で腕を振るい続けるタフガイばかりだ。その「料理」は軸の通った力強いけれども穏やかな料理になっていた。変えていくものは何か。変えないものは何か。そんな4人の今を追ってみた。

<INDEX>
ポワン・ドゥ・デパー(荻窪)/薗部シェフ
スクレ・サレ(新宿御苑前)/中西シェフ  
トレフミヤモト(六本木)/宮本シェフ
南部亭(日比谷公園内)/釜谷シェフ


ポワン・ドゥ・デパー(薗部シェフ)/長い船旅の先にみた桃源郷

阿佐ヶ谷の人気店から六本木に移ってきたのはまだ東京ミッドタウンができる前のことだ。シンプルな看板から放たれる光は今も記憶に新しい。階下の空間は煮込んだ料理の香りがほのかに漂い、私は何度かワインと共にフランス料理について多くの記憶を重ねることができた。

大規模な商業施設ができた頃、契約上の問題から赤羽に移転。フレンチ不毛の地において、カジュアルな雰囲気の中で骨太の、でもさりげなくちょっとお洒落な料理が繰り出され、地元のファンを増やしていったことはつい昨日のことのようだ。
ポワンデパー

トマトを重ね合わせた彩りの美しさも食欲を駆り立てる。夏らしい一皿だ。

そして今年、2017年の初夏に薗部ご夫妻は荻窪に戻ってきた。シンプルでこじんまりとした店内はカウンター席のみ。ニコニコとした桃子マダムはいつも僕たちの真ん前にいる。ちょっと気難しそうに見える薗部シェフは右手の厨房で素材に対して真剣なまなざしを向け、淡々と仕事を進める。
ポワンドゥデパー

オマール海老の旨みがぎゅっと詰められた一皿だ。

ワインや料理をいただく前に、「なんという理想的な二人なんだろう」という気持ちが先に来てしまう。薗部シェフの料理を単にクラシカル、と呼ぶにはいささか軽い気もする。素材を忠実に活かして、その味を膨らませ、形を変えて料理に仕上げる。その素材が何であるか説明は要らない。「何を食べているかわかる料理であることが食の記憶につながる」とはアラン・デュカスの言葉だが、薗部シェフの料理はその意味で分かりやすい。
ポワンドゥデパー

マグレ鴨はしっかりと火が入る。噛むごとに滋味深い味わいが広がる。

マグレ鴨のローストは比較的しっかりと火入れがなされる。肉厚な鴨は噛むごとにしっかりとした味わいが口の中に広がる。ボリュームたっぷりな食べ応えのある料理に仕上げられる。

鮎のテリーヌはさらりと深い、そして滋味深い一皿だ。しつこくなく、さりげなく、日本の夏を表現する。暑い季節をするりとかわすフランスにはない、日本のフランス料理をこの時期にぜひ感じたい。トマトのムースやジュレを重ねた前菜はさっぱりと多くの野菜をいただける一皿。トマトの持つ味わいの変化をゆっくりと楽しみたい。

オマール海老をたっぷりと仕込んだパイ包み。古典的なフランス料理が今も健在なのは「美味しいから」にほかならない。その美味しさの多くはソースにある。水とバターと出汁を時間を重ねて辿り着く旨みの世界。素材、料理、ソース、さまざまなエッセンスがすべて網羅されたオマールのパイ包みとソースアメリケーヌはぜひお勧めしたい一皿だ。
ポワンドゥデパー

マダムとシェフの人柄に惹かれるファンはとても多い。

荻窪のポワン・ドゥ・デパー。決して新しい現代風フランス料理とは別の、ひと味深いホンモノ感が溢れる。カウンター席でカジュアルに「かわらないフランス料理」を楽しみたい、そしてマダムの笑顔とワインに癒されたい方はぜひ訪れてほしい。

<DATA>
ポワン・ドゥ・デパー(荻窪)
住所:東京都杉並区天沼3-12-6
予約電話:03-6915-1660
営業時間:ランチ 12:00~13:30L.O
ディナー18:00~21:00L.O
定休日:月曜日ほか月一回連休
ランチ お任せコース3500円(税別)とアラカルト 要前日までの予約
ディナー お任せコース8500円(税サ別)他 アラカルト
いずれも要予約
地図


スクレ・サレ(中西シェフ)/あの時も、今も変わらないエネルギッシュな一皿

四谷三丁目でよく飲んでいた時期があった。狭い通りにいい感じで並ぶ小さな店はひとつひとつに個性がある、今も大好きなところだ。さて、その頃に近くに住む友人と何度か訪れていたのが四谷三丁目と曙橋の間にあったスクレ・サレだ。ここは決してハレの日のレストランではなかったが、料理のクオリティはとても高く、そして南仏カジュアル風の店内はほっこりと心地よい風が流れていた。
スクレサレ

カウンター中心の店内は意外に広くゆったりとしている。

初めて訪れた時にはサービスがとても早い方がいた。きっと店長だったのだろうか、26席程度だったと記憶しているが満席でも決して待たせることなく、多くの注文をささっとこなし、時折お客とも雑談し、ワイングラスが空のままということがない、スピーディーな動きに合わせて骨太の料理が次から次へとやってきたことが懐かしい。

中西シェフはその後店を閉めて、有名ホテルで一時腕を振るう。多くは語らないが、しっかりとリ・ソートをかけて次の準備をしていたに違いない。

2017年4月に新規開店したスクレ・サレは新宿御苑前から住宅地に入ったあたりだ。このエリアは四谷三丁目同様、こじんまりとした個性的な飲食店がぽつぽつと軒を連ね、街をぐるぐる歩いてみるのも楽しい。

その一角の光がこぼれるレストラン、そこが新しいスクレ・サレだ。前とは違い、カウンターと大きなダイニングテーブルで空間を醸し出す。お勧めはシェフの前のセンターだろう。サービスにあたるマダムはほんのりとした独特の空気感。やや濃い目のシェフに淡いマダムの取り合わせの魅力は、勧められるワインと繰り出される料理とともにこの空間の重要なエッセンスであることに気づいてしまうだろう。
スクレサレ

ビッグサイズだが飽きのこない味わいだ。アルザスのワインを合わせたい。

スモークサーモンのサラダも素材が緻密に組み上げられ、ソヴァージュが彩りを添える。フォアグラのテリーヌの厚さは本場フランスはランド地方のそれよりも厚く、緻密に仕込まれる。意外にも飽きることない味わいが続く。濃厚さの先に見えるシンプルな旨みこそ、これぞフランス料理、万歳。

ワインと素材の出汁と多くの隠されたソースによって作り出される牛頬の赤ワイン煮込。フランス料理の傑作定番のひとつと思うが、中西シェフの料理は何度でも食べたくなる強いエネルギーを持った料理に仕上げられる。これもしっかりと仕込まれたソースの旨みが強く記憶に残る。
スクレサレ

これぞフレンチの定番、牛頬肉の赤ワイン煮込。

スクレ・サレの特徴は肉料理に見る、がつんときて、するっと抜けるような味わいのメリハリ。重さと軽さのバランスがちょうどよく、赤ワイン、特にブルゴーニュワインが進むだろう。カウンターのすぐそこにシェフの動きがある。入念に仕込みを経た素材、オーブンから漂う香り、マダムのさりげなくも優しいサービス、すべてがフランス料理なのかもしれない。

がっつりと肉料理を、というフレンチ好きはぜひお勧めしたい一軒だ。

<DATA>
スクレ・サレ(新宿御苑前)
住所:東京都新宿区新宿1-24-7 ルネ御苑プラザ 1F
予約電話:03-6457-8664
営業時間:ランチ 12:00~15:00(金・土・日)
ディナー18:00~23:00
定休日:月祝
ランチ  コース3000円(税別)
ディナー アラカルトで。前菜とメインで5000円前後。コース要相談(税サ別)
地図

トレフミヤモト(宮本シェフ)/多くのゲストを惹きつけてやまない必殺スペシャリテ

初めて宮本シェフに会ったのは恐らく1990年代前半。当時一世を風靡していた倉庫を改造したレストラン、勝どきのクラブニュクスだった。その後96年に西麻布の街角にクリニャンクールを開店し、常に語り続ける「ヌーヴェルクラシック~進化する古典」なフレンチをスタートさせた。

現在は六本木でトレフミヤモトの名前のもと、ヌーヴェルクラシックはさらに深化を重ねる。宮本シェフの強みは絶対的なスペシャリテが複数あることだ。そしてその料理に固定ファンが付き、年に一度でもそれを楽しみに足を運ぶと聞く。

その一つが江戸前穴子とフォアグラの一皿だ。捌いた穴子の中にワイルドライスなどを詰めて蒸したあと、ホタテとフォアグラのソテーを重ねて少し甘めのポルト酒のソースと軽いバターのソースで仕上げるもの。立体的な盛り付けと濃厚で複雑な味わいは一度口にすると記憶から消すことはできない。夏を前にすると一度その料理を経験したゲストから問い合わせが入るという。「もう始まった?」と。
トレフミヤモト

この料理を目指して多くのゲストが集まる。

フォアグラとトリュフのクロケットも味覚をバージョンアップさせてくれる一皿だ。コロッケのなかに溶かしたフォアグラとトリュフを入れてフリットにしたものだが、調理中に中を確認できない至難の料理。温度加減や経験値がモノを言う、これぞまさにスペシャリテ。小さなクロケットを口に含むと中から湧き出るフォアグラとトリュフソースに味覚は宙を彷徨い、表現する言葉はどこを探しても見つけることはできない。フレンチ好きのみならず多くのグルメに味わっていただきたいと思う逸品だ。
トレフミヤモト

仔羊のローストにはトリュフがたっぷりと添えられる。

「自分の料理に欠かせないものはフォン、つまり出汁を使ったソースであり、それを現代風の、時代に合った形に進化させていかなくてはいけません」と話す宮本シェフの料理は、見た目は力強いエネルギッシュな姿を持ちつつ、味わいは繊細に仕上げられる。ソースの複雑さを通じて日本におけるフランス料理を支えるレストランはそう多くないだけに宮本シェフの姿勢は貴重だ。

おもてなしのプロでもあるマダムの存在も欠かせない。家庭でできるフランス料理の教室の定期的な開催など、途切れることなく続けていることもマダムの魅力の一つかもしれない。

トレフミヤモトはハレの日のレストラン。誕生会や記念日の候補に入れておきたい一軒。夜になると心地よい風が流れる。夏の夜はテラスの席がお勧めだ。

<DATA>
トレフミヤモト(六本木)
住所:東京都港区六本木7-17-20 明泉ビル1F
予約電話:03-5772-7755
営業時間:ランチ 12:00~13:30L.O(土日)
ディナー18:00~21:00L.O
定休日:月曜日(祝日は営業、翌火曜休)
ランチ  コース3800円~(税サ別)
火~金のランチは予約にて6名以上のグループのみ
ディナー コース7800円~(税サ別)
地図
【関連記事】3fff トレフ ミヤモト(六本木)<2008年>

南部亭(釜谷シェフ)/人気シェフが辿り着いたのはキャリアスタートの地

2018年現在、釜谷シェフは自由が丘近くの九品仏に「コム・ダビチュード」を開店し、人気を博している。

かつて恵比寿にコムダビチュードという人気のレストランがあった。フレンチ&ワイン好きが集まる大人気のレストランだった。フレンチの魅力にとりつかれた私がそのレストランが好きだったのは、ワインリストが興味深かったからに違いない。そこでも多くのワインを楽しんだ記憶が蘇る。

釜谷シェフは恵比寿の店を閉めた後、いくつかの人気店のシェフを経て一世を風靡した「俺のフレンチ」に身を置く。そして2016年に自身初めてシェフとして勤めた日比谷公園の南部亭に戻ってきた。南部亭は日比谷公園は野外音楽堂の近くにある公園内一軒屋のレストラン。西洋料理店という古い看板から往年の時代風景を感じつつ、日本風な外観は都心の一等地に存在するレストランとしてはとても貴重な存在を維持している。
南部亭

オマール海老の凝縮感とリゾットの組み合わせに息を飲む。

店内に足を踏み入れるとクラシカルで落ち着いたインテリアには心地良い空気感がある。ランチの時間帯にディナーメニューをいただいた。シェフの料理はいい意味で力が抜けて、すーっと身体に染み込んでいく優しい料理だ。これはシェフが選ぶワインリストを見ると、からくりがわかるようになっている。

ワインリストのトップページはいきなりロワールのワイン4ページからはじまる。途中、シャンパーニュの1ページをはさみ、アルザス、ローヌ、南西部、そしてブルゴーニュがやってくる。最後に申し訳なさそうにボルドーが1ページ。実に個性的で、シェフの好みの通りのワインリストではないか。場所柄、官公庁や政財界の方々が多いと聞くが、このワインリストは海外からのゲストもきっと魅力的に映るに違いない。
南部亭

鮑と牛ヒレの贅沢な組み合わせにはロワールのシノンを合わせたい。

オマールエビのローストは軽くスパイスが効いたリゾットの上に重ねられ、ヴィネグレットとパセリの軽いソースで彩りを添える。オマールはフレンチの魚料理では欠かせない素材。白身の魚より食感がはっきりして味わいも多様性に富み、個人的には大好きな素材のひとつだ。

メインは力強い料理がやってくる。ナスの上に牛フィレとアワビのローストが積み上げられた一皿。はっきりとした味わいは凝縮された旨みからやってくる。海と山の素材を組み合わせ、ソースは見た感じより比較的軽やかに仕上げられる。
南部亭

1963年生まれの釜谷シェフ。まだまだこれから!というエネルギーを感じる。

日比谷公園の中というロケーションはこれだけでアドバンテージだ。気持ちのいい酔い加減で公園を散歩しつつ、もう少し飲みたければ銀座はすぐそこだ。ここも記念日やハレの日に訪れたい一軒として押さえておきたい。

<DATA>
南部亭(日比谷公園内)
住所:東京都千代田区日比谷公園1-2
予約電話:03-3591-1023
営業時間:ランチ 11:30~14:00(平日・土)
ディナー17:30~21:00(土は17:30~20:30)
定休日:日祝
ランチ  コース4500円(税サ別)
ディナー コース11000円(税サ別)
地図


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