多分1993年頃の記憶だったと思います。北海道の中学時代の友人が就職で上京することになり、そのお祝いにちょっと気張ってフレンチに行こうとガイドブックを見て選んだのが当時一軒家のレストランとして有名だったクイーンアリス。クイーンアリスと言えばフランス料理をビジネスとして成功させた石鍋裕シェフが初めて出店したお店。

そしてこれは自分の意志でフランス料理店を予約した初めての経験です。

「嶋さま、お待ちしておりました」。雨の降る夜、地図を見ながら辿り着いた先には、もうすでにお店のスタッフの暖かなお迎えがありました。「なんで自分の名前がわかったんだろう」、レストランで名前を呼ばれるのもはじめての経験だった訳です。

内装もアバンギャルドでセンスがよく感じられ、料理も大根にフォアグラのソテーを乗せ、和風仕立てのバターソースをかけたものは、これまで食べたことのないウマイ料理でした。こってりしていて、でもソースはあっさりとしていて、フォアグラってこんなにうまいんだ!とはじめて思ったくらいでしたから。

この頃のクイーンアリスは近くにクイーンアリス迎賓館を開店してまだ1,2年の頃だったかと思います。若い方がちょっとオシャレしてフレンチを食べに行くには絶好の1軒だったかと思います。それまでのフランス料理は重めのソース主体の伝統的フランス料理だったものから素材の新鮮さや本来の持ち味を重視するいわゆる「ヌーヴェル・キュイジーヌ」が創作されるようになったと言われています。そこに独創的な料理を創作することで料理人としての上り坂にいたのが石鍋シェフであった訳です。

その意味でこれまでフレンチに接することの少なかった人に対してフレンチの裾野を広げたという功績は非常に大きいと言えるでしょう。

しかしながら楽しい時間ではありましたが、最後にお勘定を見たときにも驚きました。ワインはグラスでしか飲んでいないので料理の金額7,500円×2とちょっとかなと思ったのですが、ぬわんとサービス料が17%!いや、驚きました。まあ、お出迎え料がついたのでしょう。いっそのこと全部価格に含んでしまえば後で驚くことにはならないだろうにと思うのは私だけでしょうか。

少し残念なことに、クイーンアリスはその後、大衆化・コマーシャル化という意味でのビジネスの成功とは裏腹に料理の方向性やサービスのレベルにおいて他店の後塵を拝しているような気がします。いい悪いは別にしてとにかく賛否両論の多いお店です。

今でこそ実力ある若手シェフやサービススタッフがいる個性的なレストランでそれぞれの個性溢れる料理やサービスを受けられるようになりました。私にとってクイーンアリスでは、当時のまま記憶を封印している稀有なレストランなのです。

ただし何と言っても料理の名誉鉄人。石鍋氏は、田崎慎也氏がワインをコモディティ化したように「フレンチの日常化」に貢献した功労者です。最近では竹橋の
東京国立近代美術館内に「クイーンアリスアクア」というレストランを開店し新しい話題を提供しています。


今後のクイーンアリスの展開はいろんな意味で興味があります。
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