フランス料理を通じて日本の美食を表現する「Ode(オード)」

フランス料理はいつもあっと驚かせるものであり、愚直なほど変わらないものでもある不思議さをもつ。さらにどんな国の素材や技法も躊躇なく受け入れる懐の広い料理は他に存在しないかもしれない。
Ode,フレンチ

この小さなボールからOdeの幕が開く

パリのレストランではワサビや海苔はもはや珍しいものではなくなった。純米大吟醸酒はそれ専用のグラスに注がれ、日本特有の素材やSAKEはフランス料理の世界にいくつかの効果的なアクセントをもたらす。

20年前にはここまで高性能なスマホをひとり1台使いこなすなんて思ってもいなかっただろう。同じく20年前ワインブームなんてなかった時代にフランス料理がこれほどまでに変化していくなんてだれも思わなかっただろう。もはやヌーベルキュイジーヌも遠い昔の言葉に聞こえてしまう。

突如広尾の地に現れたOde。この個性的なレストランは日本の世界観を素材と料理で表現している。

かつて和風フレンチや和のテイストを感じるフランス料理という言葉があった。かくいう私もしばしば使ったかもしれない。

しかし、Odeの料理はそういった、とってつけた感覚的なワードを寄せつけない独自のテイストを皿の上に彩る。日本の伝統的な一面をフランス料理のエスプリによって表現しようとしている。

ドラ○ンボールと名づけられたファーストアミューズからOdeの幕が開く。この小さなアミューズをどう表現するかは口にした方だけにしたい。さまざまな味わいが閉じ込められた小さな「ボール」はまるで料理を地球に見立てたようなものなのか。
Ode

器を開くとヤングコーンとコリアンダーの香りが沸き立つ


現代フランス料理を突き抜けて

メニューには素材しか書かれていない。説明を聞いても調理法や組み合わせはいつしか忘れてしまうが、記憶には素材とビジュアルが蘇るように仕掛けられている。それほど一皿一皿のプレゼンテーションは鮮烈だ。

ガストロノミーを独自の切り口で表現する料理が続くがベースは伝統的フラン料理の技法そのもの。ソースで締めるところは締めて、出汁の香りを漂わせるときは美しく、優しくまとわりつくような食感を表現する。
広尾,フレンチ

この料理のタイトルは「Gray」。素材とソースが複雑に絡み合う魅惑の一皿。

イワシのメレンゲは京都の石庭の一部を見ているかのような感覚になる。この中には一体何が潜んでいるのだろうか? そしてこの料理はどういう背景から生まれたのだろうか?
広尾,フレンチ

川俣シャモの食感とソースの絡みが絶妙なある日のランチのメインディッシュ

ランチの肉料理、川俣シャモはもう10年以上も改良と地道なマーケティングで人気ブランドになった素材。バロティーヌに仕立ててその優しい味わいを盛り上げるためのソースは予想以上に力強いものをあてる。

桜海老の香りは初夏の海を運ぶ。手打ちのパスタ絡めても、これはイタリアンか?などとは考えることもなく、まるで舞台のシーンが変わるかのような感覚が蘇る。
Ode,フレンチ

山菜は長野北部の山々を歩く山菜名人から届けられる

こごみ、タラの芽、コシアブラなど初夏の山菜がところどころに顔を出す。新潟や長野の山々を股にかけて歩く山菜採りの名人から送られてくるのだそう。香りや味わいは強く深く、その持ち味をしっかりと引き出している。いずれの料理も現代フランス料理の先を行くものばかりだ。

チームワークの賜物

オーナーシェフを務める生井祐介氏は料理の世界に入ったのは25歳という。遅い部類に入るのかも知れない。調理師学校は出ていない。鬼才と言われる植木シェフ(Azur Masa Ueki)に師事し、現在の料理の基礎を築いた。
生井祐介,フレンチ,広尾

真摯に素材に向き合い、創造性あふれる料理を生み出すオーナーシェフ、生井祐介氏

軽井沢での数年にわたる料理人生活で、毎日のように地産地消を経験し、それが現在の料理に大きな影響をもたらしたようだ。

多くの素材は生産者から直接送られてくる。そしてそれが自身当たり前のようにメニューを考察し、料理に仕上げていく。繊細な料理は「このレストランで働く若いスタッフ全員のチームワークの賜物」と話す。営業している時間以外の十分な仕込みがあってこその料理。

調理やサービスにあたる彼らの表情は謙虚で、そして自信に満ち溢れている。
生井祐介,フレンチ,広尾

規律ある若さを感じるスタッフ。青木まりの氏(中央右)は今年辻調フランス校を卒業し、入店。 一流のサービスを目指す。江藤大生氏(右端)は最年少の料理人として奮闘中。シェフの指揮のもとチームワークでモダンガストロノミーを牽引する。

「海外からのお客様も楽しんでもらいたい」。シェフはこうも話す。ランチタイムは明るい光が差し込み、ディナータイムは提灯が灯される。モノトーンの色あいのなかに日本家屋のイメージをさりげなく演出する。

コの字型のカウンターから見える風景は思ったより穏やかだ。小さな個室はハレの日やお忍びなどで使いたい。半個室スペースは6人くらいの会食や接待にはぴったりだろう。使い勝手もよいが、まずはカウンター席からOdeの世界を眺めてみたい。

1年先、3年先、5年先を見据えている冷静なシェフは非日常的なガストロノミーを今後どう表現し続けていくのか。連日満席が続く人気店ながら、今と未来を淡々と話すシェフの視線に浮ついたところは1ミリも感じることはなかった。いまも、そしてこれからも楽しみなレストランだ。
生井祐介,フレンチ,広尾

英語とフランス語で’抒情詩‘を意味するOde


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■Ode(オード)
  • 住所:東京都渋谷区広尾5-1-32 ST広尾2F
  • TEL:03-6447-7480
  • メールアドレス:info@restaurant-ode.com
  • 営業時間:【ランチ】12:00~13:00(最終入店)、【ディナー】20:00~21:00(最終入店)
  • 料金:【ランチ】季節の食材をつかった7皿前後のお料理 6,000円、【ディナー】季節の食材をつかった11皿前後のお料理 13,000円(別途サービス料10%)
  • 定休日:日曜日
  • 席数:23席(カウンター13席・半個室6席 個室4席)
  • ホームページ:http://restaurant-ode.com/
  • 地図:Google マップ
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※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。