マーケティング/マーケティング事例

なぜディズニーは15%もの値上げに踏み切るのか?(4ページ目)

ディズニーリゾートは2014年9月1日、平日午後6時から利用できる『アフター6パスポート』を15%値上げすることを発表しました。いまだかつてない大幅な値上げを実施する狙いはどこにあるのか?マーケティング理論の観点から読み解いていきましょう!

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

3) 他のパスポートの値上げの試金石とする

『アフター6パスポート』大幅値上げ

『アフター6パスポート』のみの大幅な値上げには戦略的な意味があるのか?

今回の大幅な値上げは『アフター6パスポート』のみであり、他の2つのパスポートの価格は据え置くという、いわば異例の値上げ戦略といえます。

この背景には、ディズニーリゾートの“価格の弾力性”の程度を測るという狙いもあるのではないでしょうか。

前述したように一般的に生活必需品でなければ価格の変動は需要に大きな影響を与えます。ですから、ディズニーリゾートでは、メインの『1デーパスポート』ではなく、業績に最もインパクトを与えない『アフター6パスポート』で、値上げの影響を測っているとも考えられます。

現状ディズニーリゾートには毎日平均8万6千人弱の来園客があります。ここで平日を7万人とし、そのうちの2割が『アフター6パスポート』で入園していると想定すると、今回の値上げで影響を受ける顧客は1万4千人となります。このうち10%が値上げによって来園をしなくなるとすると、ディズニーリゾートは1日1400人の顧客を失うことにつながっていく計算になります。

もし、このように15%の値上げで10%の顧客が減少するという価格の弾力性ならば、値上げをしても最終的な売上は増加していくことにつながります。そこで、次は土日、祝日の夜間チケットで試し、最終的に『1デーパスポート』の値上げにつなげていくというストーリーも考えられるのです。

実際に、ライバルのユニバーサル・スタジオ・ジャパンは『1デイ・スタジオ・パス』が6980円とディズニーリゾートよりも580円も高い価格設定ですが、集客は好調に推移しています。ディズニーリゾートとしては、最終的に『1デーパスポート』を値上げして、売上の極大化を図りたいところですが、一気に主力の『1デーパスポート』を値上げすれば、どんなに悪影響があろうとも、もう後戻りはできません。

そこで、まずは試金石として最も影響力の少ない『アフター6パスポート』で数値を検証してから次のステップへ進もうという狙いも考えられるのです。

4)価格と顧客満足度のバランスを測る

最後の4つ目は価格と顧客満足度のバランスを確かめるという狙いもあるでしょう。

遊園地のようにキャパシティのあるビジネスでは、売上を極大化するために、適切な価格を設定する事が重要になってきます。価格を徹底的に安くして、入場者数をどんどん増やしていけばいいというものではないのです。入場者が激増して、園内の混雑や待ち時間の問題が深刻化すれば顧客満足度が低下して、顧客の感じる価値が低くなり顧客離れが加速する可能性も考えられます。

実際にディズニーランドでは、曜日によってはアトラクションを楽しむどころか、園内を歩くことさえままならない時もあります。このような場合、割安な価格でさらに顧客を呼びこもうとすると、その戦略が裏目に出てしまうのです。

逆に、値上げをして入園料は若干高くなっても園内で快適に過ごすことが出来れば体験価値は高まり、顧客満足度が向上してリピートにつなげることができるようになります。つまり、ディズニーリゾートにとっては、価格と価値のバランスを取ることが重要になってくるのです。

この観点から今回の『アフター6パスポート』の大幅な値上げは、過熱する夜間イベントの混雑状況を幾分和らげ、適切な価格と顧客満足度のバランスを確かめるうえで重要な役割を担う価格戦略といえるのです。

このように、『アフター6パスポート』のかつてない思い切った値上げは、ディズニーリゾートが次のステージへ向かう方向性を決めるうえで重要な決断であったといっても過言ではないでしょう。

果たして、その答えはどう出るか?

ディズニーリゾートの次の一手で明らかになるでしょう。
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