金魚を表現するために考え出した独自の技法
「金魚絵師」とも呼ばれる深堀隆介さん
「それまで僕が作ってきた作品たちが全然羽ばたかなかったのに、金魚の美に気付いてから作った金魚の作品は、自分の手から離れて勝手に進んでいくというか、僕の知らないところでどんどん進んで泳いで行ってしまう感じでした。当時はまだ金魚救いという言葉は使っていなかったのですが、僕が金魚に救われたと感じるようになって、金魚ってすごいな、金魚って奥深いなと思ったんです」
「金魚が中国で出現して1500年ですけど、その間、人間が飽きずにずっと作り保ち続けてきた。日本だけでも500年続いているわけです。その事実だけを見ても、金魚には人間を1500年間も惹きつける秘密があると思った。もっと言えば人間と金魚の関係の間に僕ら人間を解き明かす秘密があるんじゃないかとも思えた。それで、それからは金魚一本に絞って、金魚と人間との関係を作品で表わそうと思ったんです」
横浜のアトリエ「金魚養画場」にて創作活動に打ち込む
「作家になって生きていくなら、自分の技術を確立しないと生きていけない。自分だけの技術が欲しいとずっとそう思っていました。それである時、造型屋さんでアルバイトをしている時に扱った経験のある樹脂を使おうと思ったんです。樹脂はみんなが使える訳じゃないし、僕にはその経験があったから、その樹脂の技術を応用してみようと思った。最初は樹脂に自分で描いた金魚を透明フィルムにプリントして流し込んだんですが、どうも見た目でフィルムを入れたなっていうのはわかってしまい、美術作品としての完成度もイマイチ甘いなぁと思っていた。それで『そうだ!これは描けばいいんだ』と思ったんです」
「僕は絵の具が樹脂に溶けると思っていたんですが、絵の具を入れて次の日見たら、絵の具が溶けずに綺麗にそのまま固まっていた。『これだっ!』と思いました。当時はどうやって作っているか誰も知らないので、これはどうやってやったんだとか、驚かれ方や反響は今以上にすごかったですね。ただ、僕が描く金魚は描写というよりは、その時の自分の内面を金魚で表現しているだけで、いわゆる写実ではありません。みなさんは僕の作品を見てリアルだと言ってくれますが、 実は僕の内面を金魚で描いているんです」
世界に拡がる「日本人・深堀隆介」の世界
ドイツでも好評を博した深堀さんの個展
「この技法は金魚を表現するために生まれたんです。金魚は歴史的にみると、もともと上から見るものですよね。そういう意味でも上から見せるのに効果的な技法なんです。だから、僕はこの技法は金魚を描くことが一番コンセプトとして合うと思うし、僕の中では意味がある。金魚を表現するためにこの技法を発想した過程があるわけです。あの枡の金魚には、僕の内面の感情、そして技術としての新しいアプローチ、すべてが一体となってピタッとくっついているんです。そういう意味では自分で言うのはなんですけど、完成度が高いと思っています」
ロンドンのガラクタ市にて購入した煙草の缶を使用した作品
「日本人にとって金魚はある種特別なんですよね。香港の金魚街なんかに行っても大半が熱帯魚だったり、金魚と熱帯魚が半々ぐらいで、店に混在して売られているんですが、日本人にとって熱帯魚と金魚の間には、はっきりと分けられている大きなラインがある。このラインの存在を僕は表現したい。だから、金魚を描くということに意味があると思うのはそのラインの存在を表現することにも繋がってくるし、『日本人とは何か』ということにも繋がってくる。 日本の金魚すくいを夜店でやるという文化の影響は大きくて、あれは世界のどこにもない文化なのですが、金魚すくいのお陰で誰もが一回は金魚を飼ったことがあると思うんです。我々のアイデンティティの中に金魚はかなりの割合で入り込んでいると思っていて、それが僕が金魚をテーマとする理由の一つです」
>>深堀隆介さんインタビュー(1ページ、2ページ、3ページ)
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