不動産売買の法律・制度/不動産に欠かせない「道路」の知識

法42条2項道路とセットバック(2ページ目)

古くからの住宅地には幅員が4m未満でセットバックを必要とする「みなし道路」が数多く存在しています。購入しようとする住宅の敷地がこれに該当するケースも多く、敷地のセットバックについて正しく理解しておくことが欠かせません。後退用地をどうするのかを含め、法42条2項道路について詳しく説明します。(2017年改訂版、初出:2011年11月)

執筆者:平野 雅之


法42条2項道路の指定を受けていないときの注意点

前面道路の幅員が4m未満で、建築基準法による接道義務が課されてから(建築基準法施行時または都市計画区域への編入時以降)その道路に面する敷地で建築確認の申請が出されたことがない場合には、特定行政庁による法42条2項道路の指定が受けられるのかどうかさえ分からないことがあります。

もし、同じ道路に面して明らかに建て替えられた家があったとしても、順法意識が希薄だった頃に無確認のまま建てられた違反建築物の場合があるので早計な判断は禁物です。

このような場合には、建築基準法の施行日(昭和25年11月23日)または都市計画区域への編入日時点ですでに建築物が立ち並んでいたという事実関係を、それ以前の航空写真を用いて明らかにするなど、何らかの証明材料がなければなりません。

仮にそれがうまく証明できたとしても、実際に特定行政庁から法42条2項道路の指定を受け、建築確認が可能となるまでにはそれなりの期間がかかりますから、このような敷地の購入を検討するときにはしっかりと手順を考えるべきです。

ただし、基準日以前に建築物が立ち並んでいたとしても、法42条2項道路の指定は幅員1.8m(1間)以上であることが原則であり、それ未満の道路を指定するときには建築審査会の同意が必要とされています。

ちなみに、「セットバックをするのが嫌だから」などの理由で法42条2項道路としての指定を拒否すれば、建築確認を受けられず、合法的に住宅などを建てることができません。同じ前面道路に接する敷地の所有者の中にそのような人がいると厄介な事態になるでしょう。


道路の中心が中心線ではない場合

敷地のセットバックは道路の両側で均等に行なわれるとは限りません。片側ではセットバックがすべて完了し、もう一方ではまったく行なわれていないという事態もあるでしょう。とくに片方が広い敷地の場合にそのようなケースが想定されます。

片側のみのセットバック

このような場合には、現況の道路における見た目の中心線ではなく、あくまでも旧道部分の中心線からのセットバックが必要です。したがって、4mに不足する分は一方的に後退しなければならないことになります。

また、古くからある道路が不規則に曲がりくねっているような場合もありますが、ここで原則どおりにセットバックをすれば、広がった後の道路も不規則な形のままになってしまいます。

セットバック中心線の指定

そのため、このような道路では関係住民との話し合いのうえで「セットバック用の中心線」を定め、拡幅後の道路が整然とした形状となるようにしている場合があります。もちろん直線だけではなく、カーブや屈曲点を含む中心線が定められることもあります。


過去のセットバックが不十分な場合

過去に適切なセットバックが行なわれていれば、その敷地において改めてセットバックをする必要はありません。

ところが、以前には住民や建築業者、不動産業者などの順法意識が弱く、指導や監督もあまり行なわれていなかったため、不十分なセットバックのままで終わっている敷地が少なからず存在しています。

セットバックをするものとして建築確認の申請をしながら、実際にはまったくセットバックしなかったケース、または、たとえば40cmのセットバックが必要なのに対して20cmしか敷地を下げなかったようなケース、あるいは、いったんセットバックしながら後に元の位置まで敷地を戻してしまったケースなどが考えられます。

このような敷地の売買のとき、売主はセットバックが「きちんと終わっているはず」といった認識のまま説明をし、引き渡しが終わってから事実が判明してトラブルになることもあります。

売買契約前における媒介業者の調査が的確であればこのような事態は防げるはずですが、問題が見落とされてしまうこともあるようです。複数の並びの家の敷地を見比べたときにセットバック後のラインがずれているような場合には、とくに注意をしなければなりません。

また、上記とは逆に過剰なセットバックをした敷地もまれに存在しています。その敷地の状況にもよりますが、後退し過ぎた分を本来の位置に戻すのはなかなかたいへんで、うまくいかないこともあるでしょう。


セットバック後の土地はどうする?

幅員4m(指定区域では6m)未満の道路に接する敷地のセットバックについては建築基準法で決められているのですが、セットバックをした後の土地(後退用地、後退道路用地)をどうするのかについては、法に明確な規定がありません。

道路状に整備をすることが原則でありながら、過去にセットバックをした土地では未舗装のまま放置されていたり、個人の敷地として自転車やバイク置き場として使用されていたり、あるいは花壇などに転用されている例も見受けられます。

しかし、近年は自治体による指導要綱などの整備が進んだほか「狭あい道路整備事業」としての位置付けもされるようになり、建築工事前の事前協議を要請するところも多くなっています。

なかには建築確認の申請よりも1か月以上前の時点における協議を定めている自治体もありますから、セットバックを要する敷地で建築計画を立てるときには早めの準備が欠かせません。

前面道路が公道の場合

自治体によって対応方法は異なりますが、寄附(無償譲渡)、無償使用承諾、自己管理の3つを定めている場合が多く、寄附と自己管理の二者択一の場合もあります。一部の自治体では有償譲渡(買い取り)を定めていますが、買い取り価格はそれなりに低く抑えられたものです。

寄附の場合は後退用地の所有権が自治体へ移転し、当然ながらその整備や維持管理は自治体が行ないます。寄附に必要な測量、分筆地目変更・所有権移転登記境界標識設置などの手続きや費用も自治体の負担となることが大半でしょう。

ただし、寄附の前提として官民査定が必要となり、その実施にかなりの日数がかかるため、未査定の敷地の場合には建築計画との兼ね合いを考えながら早めに準備をしなければなりません。

無償使用承諾の場合は後退用地の所有権を個人に残したままで、道路としての使用権を自治体に与え、その整備や維持管理も自治体が行なうことになります。また、個人名義であっても後退用地に対する固定資産税都市計画税非課税となります。

寄附に対しては報奨金や奨励金の制度を設けている自治体もあるほか、寄附または無償使用承諾の場合に擁壁の移設工事費、工作物(門や塀など)の撤去費用、樹木の移植費用などについて助成金が支払われる自治体もあります。

しかし、寄附または無償使用承諾のいずれも選択しないで自己管理とした場合には、すべて自己負担で整備や維持管理をしなければならず、原則として助成金なども受けられません。なお、自己負担で測量や分筆登記をすれば、固定資産税などの非課税措置を受けることが可能です。

前面道路が私道の場合

自治体への寄附や、自治体による無償使用といった措置はありませんから、あくまでも私道の一部として自己負担で整備や維持管理をすることになります。

回りの私道の所有者または共有者との間で、整備方法などについて協議が必要となることもありますから、この場合でも早めに準備をすることが欠かせません。

自治体によっては、私道の整備に対する助成制度を定めている場合もあります。また、道路状に整備をした場合における固定資産税などの非課税措置については、既存の私道部分の取り扱いがどうなっているのかを確認することが必要です。


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