不動産売買の法律・制度/不動産に欠かせない「道路」の知識

前面道路が4m以上でも敷地後退が必要なとき

前面道路の幅員が4メートル以上であれば、42条2項道路のような敷地後退(セットバック)の規定はありません。ところが、他の要因によって敷地を後退させなければならない場合もあるため、4メートル以上だからといって安心すると想定外の事態に陥ることもあります。うっかり見落とすと面倒なことになりかねないケースを、いくつかご紹介することにしましょう。(2017年改訂版、初出:2012年10月)

執筆者:平野 雅之


購入しようとする住宅や土地の前面道路の幅員が4メートルに満たないとき、原則として道路中心線から2メートルの位置まで敷地後退をしなければならないことは、比較的よく知られているでしょう。不動産業者による調査でも、これを見逃すミスはほとんど考えられません。

それでは幅員が4メートル以上の道路であればまったく問題がないかというと、なかなかそうはいかないのが不動産の難しいところです。

前面道路が公道であれ私道であれ、「4メートル以上だから大丈夫」などと油断すれば、想定外の落とし穴にはまることにもなりかねません。既存の道路幅員が4メートル以上でも、さらなる敷地後退を求められる場合があるのです。

前面道路の幅員が4メートル以上の敷地でも注意しなければならないのは、いったいどのような場合なのか、いくつかのケースをみていくことにしましょう。


自治体の認定幅員と相違がある場合

道路境界

道路境界が5~10センチほどずれていることは意外と多い

公道を管理する自治体によって、あるいは同じ自治体のなかでも路線によって道路幅員の取り扱いは異なりますが、「現況幅員」で管理している場合と「認定幅員」で管理している場合があります。

「現況幅員」で管理する路線では、あくまでも現地における実際の幅員を優先するため、特別な事情や経緯がないかぎり、とくに問題が起きることはないでしょう。

ところが「認定幅員」(指定幅員)で管理する路線において、現況の幅が不足するときには、いろいろと厄介なことになりかねません。

たとえば敷地の前面部分において、自治体の認定幅員が6.50メートル、現況幅員が6.20メートルだとすれば、不足する0.30メートル分について「敷地に住宅を建築するとき、とりあえず一方的に敷地後退をしておいてくれ」という指導を受ける場合があります。

自治体によって指導方法が異なる場合はあるでしょうが、「とりあえず後退」の部分に擁壁などがあっても「じゃあ造り直して」と冷ややかな回答しかしない自治体もありました。

もちろん、それ以前に道路査定(官民査定)によって敷地と道路の境界が確定していれば、それに従うことになります。ところが、この道路査定には数か月かかることも多いため、それを待たずに着工しようとすれば上記のようなことになるのです。

このとき「とりあえず後退」をした後の道路査定によって、敷地後退をし過ぎていたことが明確になれば、その分は戻すことができます。

過去に道路査定を済ませている敷地も少なからずあります。幅員が4メートル以上の公道に接する敷地を購入するときには、まず「道路査定図」(官民査定図、境界確定図、確定測量図)の有無を確認するようにします。

それがないときには、自治体の道路台帳などに記載された幅員と現況の幅員に相違がないか、媒介業者によく調べてもらうことが大切です。

なお、過去に区画整理事業が実施された敷地であれば、その後に道路へ突き出した建築などがされていないかぎり、さほど問題が生じることはありません。


位置指定道路の幅員が不足している場合

特定行政庁から位置の指定を受けて新たに造られる幅員4メートル以上の道路を、一般的に「位置指定道路」と呼んでいますが、その幅は4メートルにかぎりません。4.50メートル、5.00メートルなど、4メートル以上であればどのような幅も考えられます。

問題が生じるのは、現況の幅員が指定された幅員に満たない場合です。

たとえば指定された幅員が4.50メートルなのに対して、現況の幅員が4.20メートルしかないとすれば、図面との照合や測量などによって指定されたときの位置を復元しなければなりません。

関係するすべての敷地の問題でありながら、まわりの敷地所有者がまったく協力してくれなければ、調査費用などをすべて負担しなければならなくなる場合もあり得るでしょう。

位置指定道路の幅員が不足する原因としては、過去の指定から何年か経って建て替えがあったときに道路へ突き出して塀や建物が造られたケースばかりでなく、古い位置指定道路では当初から指定どおりに造られていなかったケースも少なからずあるようです。


6メートル道路規制の場合

1992年の法改正によって「6メートル道路規制」の規定が新設されています。

この規定によって特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定した区域内では、前面道路の幅員が6メートル未満のとき、道路中心線から水平距離3メートルの線まで敷地後退(セットバック)をしなければなりません。

ただし、実際にこの指定を受けている区域はそれほど多くないでしょう。


告示建築線が存在する場合

現在の法律には規定がなく、あまり聞き慣れない言葉に「告示建築線」があります。これは建築基準法の前身である「市街地建築物法」(大正8年法律第37号)の規定によるもので、「指定建築線」または単に「建築線」と呼ばれる場合もあります。

建築基準法の施行に伴い市街地建築物法は廃止されましたが、建築線の間の距離が4メートル以上のものは「その建築線の位置に、道路位置指定があったものとみなす」(建築基準法附則第5項)ものとされ、自治体によっては現在もこの「告示建築線」が数多く残されています。

告示建築線が残るのは戦前からの古い市街地や住宅地で、公道の場合も私道の場合もあります。建築基準法による位置指定道路の規定が準用されるものの、イメージとしては都市計画道路のミニ版と考えたほうが分かりやすいかもしれません。

ちなみに、不動産業者同士の会話のなかでは「告建」(こっけん)と省略する場合もあります。もちろん、お客様に対してそのような略称は使わないでしょうが……。

いずれにしても、告示建築線が敷地にかかる場合には、その線の位置まで敷地を後退させなければなりません。


道路が本来の位置から移動している場合

住宅が密集する市街地では滅多にないでしょうが、郊外の住宅地、あるいは以前に住宅がまばらだったようなところでは、道路が本来の位置から移動している場合が稀にあります。

とくに坂道や傾斜を含むような場所で、一人の地主や周辺住民が通りやすい位置へ勝手に道路を付け替えてしまったり、沿道で建て替えが繰り返されるうちにいつの間にか道路の位置がずれたりしたようなケースです。

これが公道の場合、役所が管理する台帳上の道路位置と現実の位置が異なっていて、本来の道路の場所に建物が造られ、本来の敷地が道路になっていることもあります。

このようなときには、当然ながら元の位置を復元することが求められます。私道の場合には、建築確認そのものが難しくなることもあるでしょう。それ以前に、不動産取引上で大きな問題があることはいうまでもありません。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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