マーケティング/マーケティング事例

消耗戦を避けるマクドナルドの賢いマーケティング戦略(2ページ目)

デフレ経済下で激しい価格競争の続く外食産業において、日本マクドナルドが今月から新たな取り組みを始めました。果たして、7年の歳月と300億円という巨費を投じて開始した新たな挑戦は成功を収めるのか?日本マクドナルドのマーケティング戦略を分析していきます。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

 価格競争を避けるには顧客一人ひとりに適した提案が重要

One to Oneマーケティング

売上をアップさせるには顧客一人ひとりをよく知って適切な提案を心掛けよう!

マクドナルドが新たに始めた新型クーポンはデフレ経済下の激しい価格競争に頭を悩ませる企業に大いなるヒントを与えます。確かに一斉に値下げをすればこれまで購入を躊躇していた潜在顧客を呼び込んで、顧客数を大幅に増やして顧客単価の下落を補って売上アップを図ることもできます。

ただ、一斉に値下げする価格戦略では、通常価格で購入してもよいと考えている顧客にまでキャンペーン価格を適用することで機会損失が発生してしまいます。そこで、一斉に値下げするのではなく、顧客の購買履歴を分析し、適切な商品を適切な価格で提供するクーポンを発行することにより売上の機会損失を避け、一人あたりの売上を極大化させていくことができるのです。

このマーケティング戦略は専門用語でCRM(Customer Relationship Management)、もしくはOne to Oneマーケティングと呼ばれています。顧客一人ひとりの取引履歴をよく知って、次の行動を予測し、最適な商品やサービスを提供していくマーケティング戦略といえます。

この一人ひとりにカスタマイズされたマーケティング戦略が実施できれば、不毛な価格競争に巻き込まれることはなくなります。

2011年7月14日付の日本経済新聞の記事によれば、日本マクドナルドは2004年から7年もの歳月、そして延べ300億円に及ぶ資金を投下して顧客情報などを分析するITシステムを構築してきました。今ではマクドナルドの携帯電話サイトの会員は2000万人にも上り、このうち1000万人が「おサイフケータイ」を利用しています。代金を支払う際に「おサイフケータイ」を利用すれば、『いつ・どこで・誰が・何を購入した』という情報を蓄積していくことができます。この蓄積された情報を基に次の一手を考えていけば、売上機会のアップにつながるというわけです。

たとえば、これまで週に1回必ず来店していた顧客がまったく来店しなくなったというデータがあれば、もしかすると近くの競合店に奪われた可能性も考えられます。そこで、これまでよく注文していたメニューを大幅に割引くクーポンを携帯電話に配信して、再び顧客を取り戻すといった対策を施すことも可能になるでしょう。

どんな企業でもOne to Oneマーケティングは実施できる

経済が成長している間は消費者をマスで捉えたマーケティングでも売上をアップすることができましたが、多くの業界が成熟している現代の日本経済においては、マス・マーケティングは通用しにくくなっています。マーケティングの基本は一人ひとりの顧客をよく知った上で適切な商品やサービスを適切な価格で、そして適切なタイミングで届けていくということです。もちろん、マクドナルドのように大規模に顧客一人ひとりの取引履歴に応じたOne to Oneマーケティングを実施する場合は莫大なコストが必要になってきますが、小規模な企業でもこれまでの取引履歴を分析して、適切な商品やサービスを顧客に提案する活動はあまりコストをかけずとも実践可能です。

「自社の商品が売れないのは価格が高いせいだ」と決めつけて一斉に値下げをする価格戦略を取るのではなく、顧客一人ひとりに「あなたへのおすすめ商品をあなただけの価格で提供します」と、適切な商品を適切な価格で提案できれば不毛な価格競争から抜け出して売上をアップすることも可能になるでしょう。

すき家と吉野家が実践する一斉に値下げする価格戦略と、日本マクドナルドが挑戦する一人ひとりの顧客に対して適切な価格を提案していく価格戦略。対極にあるこのマーケティング戦略を比較・分析していけば、成熟期で売上アップに悩む企業の一つの解決策を見つけることができるはずです。

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