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メンズシューズのおすすめヒールは? 革靴(紳士靴)ヒールを考える

今回はメンズシューズ(紳士靴)の「ヒール」に焦点を当ててお話します。革靴の中で決して大きくないパーツですが、ヒールは様々な角度から話をしなくてはならない、非常に奥の深い部品です。ヒールの素材による分類から紹介しましょう。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

メンズシューズのヒールは何気ないけど効果は絶大!

メンズシューズの「ヒール」について深く考えてみる

アウトソールに負けず劣らず、ヒールにも様々な種類があります。素材・成型方法・高さ…… 僅かな違いが靴全体の表情をガラッと変えてしまう、「魔の領域」です。

 
今回は、そのアウトソールとは切っても切れない縁にある「ヒール」について、色々と考察してまいります。世の中にはこれが実質的になく、足の前後で傾斜が付かないいわゆる「ぺったんこ靴」も一定の地位を占めているものの、

1. 歩行時に体重の分散を効率よく行い、足に余計な負担を掛けない
2. 馬に騎乗する際に足を鐙に固定し易くすると共に、姿勢を安定させる(騎馬民族の発想!)。
と言った運動機能面での効果と共に、

3. 背を高く見せられる
4. 堂々とした姿勢に見せられる(ヒールの付いた靴を履くと、身体がバランスを取るべく胸を突き出した姿勢にならざるを得ないのを逆手に取ったもの)。
などの美的効用も持ち合わせているせいか、ヒールの起源になるものはそれこそ紀元前から存在するもので、今日そう呼ばれているものの原型がヨーロッパの上流社会に登場し始めたのは、16世紀末期頃のようです。

アウトソールとはまた違った意味で多様なものが存在し、複数の項目にて解説しなくてはならないものですが、今回は手始めに、アウトソールの話からの延長と言うことで、素材面から考察してみることに致します。なお紳士靴の場合、「ヒール」なるものは主に以下の2パーツから構成されます。次ページ以降これらの言葉を多用することになるので、予め紹介しておきましょう。
A. トップリフト(Top Lift): ヒールのうち地面に接する部分で、歩行の際に体重が掛かる足のかかと部を支え、ふら付きや滑りを防ぐ役割を果たします。「トップピース(Top Piece)」とも呼ばれます。
B. ヒールリフト(Heel Lift): ヒールのうちトップピース以外の部分からなる、一種の積み上げ壇です。かかと部に掛かる体重を足底に平均的に分散させると同時に、足を蹴り出す力を地面により早く伝え歩行を補助する目的も有します。
ヒールのパーツ

紳士靴のヒールは、大まかにはAの「トップリフト」とBの「ヒールリフト」の2パーツから構成されます。接地する面が前者、高さを出すのが後者と覚えておいてください

   

メンズシューズのヒールも牛革が素材の原点!

レザー製のヒール

紳士靴のヒールの素材としても、牛革は文字通り王道中の王道! トップリフトに関してはかつては奥の靴のように単に釘で打ち付けられるものが大半でしたが、今日では後端に合成ゴムを咬ましたものが主流になっています

紳士靴のヒールに用いられる素材で最初に語らなくてはいけないものは、誰が何と言っても牛革でしょう。アウトソールの記事でもお話ししましたが、牛革はヒールに用いても自然な通気性と耐熱性に優れ、しなやかさとクッション性に関しても塩梅の良い、取り扱い方さえ気を付ければ快適さを格段に得られる素材です。ただしトップリフトにこれを用いたものは、合成ゴムなどの他素材に比べ耐水性やグリップ力では劣るので、例えば雨の日や雪の日などには不向きであり、また道のコンディションなど履く場の環境も選んでしまうのは仕方の無いところでしょう。

トップリフトにはアウトソールと同様の牛革、すなわち分厚いステアハイド・カウハイド等の原皮を用いて、植物タンニン鞣しを施し、銀付きの状態で素仕上げを施したものが用いられます。かつてはこれを接地面の全面に用いて、グリップ力の向上と面の補強とを兼ねた金属の釘でヒールリフトやインソールに接合させたものがほとんどでしたが、今日ではその後部、多くは外踝側の後端部に、合成ゴムや鉄製の三日月型や楔型のパーツ(これらを狭義で「トップピース」と呼ぶ場合もあります)を組み合わせたものが圧倒的に主流になっています。これらを部分的に用いることで、単に耐久性を向上させているだけでなく、土や石畳の道よりアスファルトの道に好都合なように仕様をリファインさせている訳です。
スタックヒール

ヒールリフト部が積み上げヒール仕様になっているものの一例です。牛革の層が幾つも重なり、高さを出していることがお分かりいただけるかと思います

一方ヒールリフトは、アウトソールやトップリフトとほぼ同種の牛革を、数段積み上げて成形するのが紳士靴では伝統的な製法です。この成形方式でできたものを「積み上げヒール」あるいは「スタックドヒール(Stacked Heel)」「ビルドアップヒール(Built-up Heel)」などと呼び、何段積み上げるかは靴の用途やデザインによって異なり、それがヒールの高さの違いになる訳ですが、近年ではそれに代えて「レザーボード(Leather Board)」なる牛革由来の素材を積み上げて用いるケースも大分増えています。レザーボードとは、革の製造過程で発生した屑革を細かい粉状にした上で樹脂等を用いて圧縮固化させた一種の成型材で、単にコスト面のみならず資源の有効活用の面から、今後は高額な紳士靴のヒールリフトにも採用が増えて行くかもしれません。
 

耐久性と扱い易さなら選ぶべきはラバー!

ラバー製のヒール

ラバー製ヒールの代表選手、ご存じリーガルのロングライフヒールです。トップリフトとヒールリフトが合成ゴムで一体成型されており、擦り減るのには相当な期間を要します

紳士靴のヒールに用いられる素材で、恐らく今日ではレザー以上にお馴染みなのはラバー、すなわち天然・合成いずれかのゴムを用いたものでしょう。長年の課題であった重さや着地感の硬さは年々改良が進み、元来の優位点である耐久性・耐水性そしてグリップ力の良さとが相まって、今や最も安心して使える素材になっていると思います。例えば銀座ヨシノヤの九分仕立て紳士靴やかつて大塚製靴が輸入していた頃の日本仕様のチャーチ(Church’s)などは、アウトソールがオールレザーであっても、ヒールのトップリフトには歩行時の安定性を重視し、敢えて全面ラバーを採用している程です。

ラバー素材に関しては、ヒールのトップリフトは今日、古くからの名作から最先端のものまで正に大混戦状態と申せるでしょう。それだけ多様な用途に応じて細かく使い分けられている何よりもの証拠で、一つの銘柄に惚れこんでいる方も修理の際に色々と試されている方も読者の中に多いのではないでしょうか? アウトソールの項で紹介した様々なものがヒールにもほぼそのまま用いられているので、成分の配合やトレッドパターンの進化には今後もまだまだ期待できそうです。
以前のチャーチのヒール

かつて大塚製靴が日本向けのチャーチで採用していたヒールです。トップリフトこそラバーですが、ヒールリフトは伝統的な牛革積み上げ仕様です

一方ヒールリフトの領域では、ラバー素材をそれ単体で用いることはあまりなく、多くの場合同一素材のトップリフトと一体成型されます。リーガルの「ロングライフヒール」などがその典型例で、この場合トップリフトとしての厚みを稼げるため、履く側にとってはヒール交換の修理回数を減らせるのに結果的に大きく貢献してくれています。またある程度以上高級な紳士靴、例えば前述した銀座ヨシノヤの九分仕立てのような靴では、ここを牛革積み上げの伝統的な仕様とする場合も多く、トップリフトをラバーにすることから来る印象の変化を最小限に抑えています。


なおヒールリフトに用いられている素材には、他に代表的なものとして硬度と成形性に優れたプラスチックがあります。ただし専らハイヒールなどの婦人靴向けで、紳士靴に使われることはまずありません。

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