マーケティング/マーケティング事例

牛丼御三家の非常識な値下げで業績好調のカラクリ(2ページ目)

5月中旬、すき家、吉野家、松屋の牛丼御三家が揃って値下げ合戦を繰り広げました。ここ最近続く牛丼業界の仁義なき戦いですが、不毛な値下げ競争は各社の業績を悪化させることにつながっていきそうです。そこで各社の決算書を調べてみると意外な事実が……牛丼戦争の真の狙いはどこにあるのか?探っていくことにしましょう。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

快進撃を続ける牛丼業界の決算

激しい値下げ競争が続く牛丼業界ですが、業界トップのすき家を擁するゼンショーの2011年3月期連結決算は、売上高が前年比11.0%増の3707億円となり、2010年12月期決算でフランチャイズ店を除いた売上高が前年比11%減の3237億円となった日本マクドナルドホールディングスを抜いて外食産業のトップに立ちました。純利益も35%増の47億3500万円と好調を維持しています。

また業界2位吉野家ホールディングスも2011年2月期には、3億8200万の純利益を上げ、黒字転換を果たしました。

業界3位の松屋フーズに至っては2011年3月期の連結売上高が702億円と13%の増収となり、純利益はなんと前年水準の倍以上の21億円を記録したのです。

値下げをして売上・利益をアップさせるカラクリ

牛丼戦争

牛丼1杯250円でも利益を上げるカラクリとは?

マスメディアは、牛丼各社の価格戦争はデフレ時代の不毛な競争と警笛を鳴らしますが、この各社の業績好調は何を物語っているのでしょうか?

実はこの牛丼業界の好業績の背景には、コストのカラクリがあるのです。

先ほど吉野家の牛丼1杯あたりのコストを計算したところ375円になりました。もし、このコスト計算が正しければ375円以下で牛丼を販売すれば利益は上がりません。ただ、このコストを『変動費』と『固定費』に分解すると結果は違ったものになります。

『変動費』とは原材料費など売上に応じて変化する費用であり、一方で『固定費』とは人件費や家賃など売上に関わらず一定の額を支払わなければいけない費用です。

たとえば、牛丼はお米や牛肉、玉ねぎ、調味料などの原材料を調理して作られていますが、このような原材料費は牛丼販売の増加に比例して増えていきます。原材料費を仮に牛丼1杯あたり100円とすれば10杯売れれば1千円、100杯売れれば1万円の原材料費が必要になるということです。

一方で店舗の家賃やそこで働く従業員の給料は売上にかかわらず支払わなければいけません。全く売れない時も、100杯売れた時も、従業員の給料が10万円という契約であれば、必ず10万円を支払わなければいけないのです。

そこで価格を決定する際に、コストを変動費と固定費に分けて考えれば、より戦略的な価格設定が可能になります。

たとえば、牛丼の価格が350円で、材料費が100円の場合、1杯あたり250円の利益が出ます。この売上高から原材料費などの変動費を引いた250円の利益は『限界利益』と呼ばれています。

企業は、この限界利益から、売上に関係なくかかる人件費や家賃などの固定費を賄っていくのです。

ここで、価格が350円の時に1億食売れれば売上は350億円で、限界利益は250億円になります。そして、家賃や人件費などの固定費が200億円かかるとすると、最終利益は50億円です。

それでは、価格競争で牛丼1杯100円値下げして250円とした場合はどうなるでしょうか?

原材料費は100円なので、1杯あたりの利益は150円に下落します。ところが、低価格でこれまで牛丼屋を利用してこなかったお客様を呼び込んだり、常連客のリピート数が増えたりして、値下げ前の倍の2億食を達成したとします。すると、売上は500億円になり、原材料費の200億円、固定費の200億円を差し引いて100億円の利益を計上することになります。つまり、この値下げによって、150億円の売上アップ、そして50億円の最終利益アップを実現することができたのです。

必ずしも値下げが売上や利益のアップに結び付くわけではありませんが、今回のケースでは値下げ後1.7倍の販売数の増加が見込めれば、値下げした方が業績アップにつながるということがわかります。

これが牛丼御三家の狙いなのです。

『値下げ=利益の減少』と思われがちですが、実は値下げによって販売数がある程度増加すれば、利益をアップさせることもできるというわけです。

それでは、次のページでは実際に値下げをして大幅な業績アップにつなげたマクドナルドの事例と牛丼業界の今後について占っていくことにしましょう。
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