マーケティング/マーケティング事例

牛丼御三家の非常識な値下げで業績好調のカラクリ(3ページ目)

5月中旬、すき家、吉野家、松屋の牛丼御三家が揃って値下げ合戦を繰り広げました。ここ最近続く牛丼業界の仁義なき戦いですが、不毛な値下げ競争は各社の業績を悪化させることにつながっていきそうです。そこで各社の決算書を調べてみると意外な事実が……牛丼戦争の真の狙いはどこにあるのか?探っていくことにしましょう。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

100円バーガーで大幅な業績アップを実現したマクドナルド

かつてマクドナルドは、ハンバーガーを値下げすることによって、大幅な利益向上を実現しました。

マクドナルドがハンバーガーを210円で販売していた当時は、1個あたり197.1円のコストがかかっていました。この場合、ハンバーガーを197.1円以下で売れば、赤字になるのは誰でもわかる計算ですが、マクドナルドは思い切って価格を半額以下の100円に一気に値下げしたのです。

この時誰もがマクドナルドはハンバーガーを売れば売るほど赤字になり、業績悪化はやむを得ないと思ったかもしれません。

ところが結果として、ハンバーガー1個あたりの営業利益は、値下げ前の12.9円から34.7円へと大きな伸びを見せ、莫大な利益をマクドナルドにもたらしたのです。

このカラクリも変動費と固定費で説明することができます。

ハンバーガーを210円で販売していた時は、ハンバーガー1個あたりの原材料費などの変動費が57.5円で、人件費などの固定費が139.6円でした。これを100円に値下げすることによって、1個あたりの変動費は変わらず57.5円ですが、固定費を7.8円にまで削減することができたのです。

計算ではマクドナルドはハンバーガーを100円に値下げすることによって18倍近くの販売個数を実現したことになります。

激しい値下げ合戦が続く牛丼業界の今後

牛丼戦争

戦略的な価格設定で売上・利益のアップを目指そう!

牛丼業界もただ単に不毛の値下げ合戦を繰り広げているのではありません。

外食を含めたフードビジネスはいわばゼロサムゲームです。

日本の消費者の食事の総数自体は毎日ほぼ一定なので、フードビジネスを営む企業にとってはいかにその日の食事を自社の店舗で取ってもらうかが重要になってきます。

ここで食事をめぐる争いは何も牛丼業界に限られるわけではなく、お弁当や自炊など業界の垣根を超えた争いが展開されているのです。

牛丼御三家が激しい価格競争を繰り広げてマスコミの注目が集まれば、もちろん広告宣伝費も大幅に削減できますし、これまで家からお弁当を持ってきて食事を済ませていた人が、240円くらいならお弁当を朝早く起きて作るよりも、牛丼屋で食べた方が安いし、手軽だということで売上につながるケースも考えられます。

そうすれば、これまでお店に足を運ばなかった人までも取り込んで、販売数を大幅にアップさせ、最終的に売上や利益を拡大することができるというわけです。

ただし、値下げというのは非常にリスクの高い手段であり、一歩間違えば大きなやけどを負う可能性もあります。そこで、会議室で立てたマーケティング戦略と現実のビジネスでは大きな隔たりがあることを認識し、全社レベルで大規模展開する前に小さく実験することも失敗を避ける意味では重要になってきます。

値下げにも『いい値下げ』と『悪い値下げ』があります。一般的に値下げが売上や利益のアップにつながるのは、値下げによって大きな需要を喚起できる場合と、売上1単位あたりに必要な変動費率が低い場合です。

牛丼御三家の激しい値下げ競争は、値下げにより販売数が増加するという結果を残す限りは、今後もヒートアップしながら、各社に好調な業績をもたらすことでしょう。
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