激しい値下げ合戦が続く牛丼業界
いつまで続く牛丼業界の“仁義なき戦い”
5月16日から23日にかけて、“牛丼御三家”揃い踏みで大幅な値引きキャンペーンが展開されました。今や業界の盟主となったすき家は、280円の牛丼並盛りを30円値下げする「初夏の250円セール」を実施。また、かつての牛丼界の王者・吉野家は東日本地域限定ではありますが、通常380円の牛丼並盛りを270円と、110円の値下げで対抗します。そして、御三家の一角・松屋フーズも負けじと、320円の牛めし並盛りを最低価格の240円まで値下げして、ライバルから顧客を奪い去る作戦に出ました。
ここまで各社が値下げをすれば、やはり気になるのがキャンペーン価格で本当に利益が出るのかということでしょう。ライバルが値下げをすればお客様を奪われてしまうために、赤字覚悟で仕方なく対抗しているということも考えられます。特に吉野家は牛丼に特化しているので、値下げは業績の悪化に直結することでしょう。
ここで、各社の値下げの背景を読み解いていくために、牛丼1杯のコストについて調査してみましょう。
価格に詳しい流通ジャーナリストである金子哲雄氏の著書『これでわかった!!値段のカラクリ』には、吉野家の牛丼のコストは牛肉やごはん、玉ねぎ、調味料などの原材料費が137円で家賃や人件費などの経費が牛丼1杯あたり238円と計算されています。つまり、牛丼1杯にかかるコストは375円となり、1杯あたりの利益は5円ということです。そして、吉野家は「食べたらすぐ帰らせる」仕掛けを店内に施し、回転率を上げて、この1杯5円の利益を積み重ねて薄利多売で商売をしているというのです。
牛丼が380円の定価で利益が5円だとすると、キャンペーンで110円の値下げをすれば、牛丼1杯につき105円の赤字となり、キャンペーン期間中は大きな赤字が発生してしまうことが考えられます。他の2社においても、牛丼1杯240円程度まで値下げすれば赤字となって、顧客は増えれば増えるほど業績が悪化していくことが予想されます。
結果として、この不毛な価格競争で、さぞかし牛丼御三家の決算は厳しい状況に追い込まれていると思いきや、直近の決算を分析すると非常に興味深い事実が浮き彫りになります。
実のところ、牛丼御三家は業績悪化に悩むどころか、景気悪化で多くの企業が苦戦する中、非常に好調な業績を記録しているのです。
それでは、次のページで牛丼御三家の堅調な業績の背景に迫っていくことにしましょう。