ストレス/身近な人のストレスケア

サバイバーズ・ギルトとは…被災された方の心の理解と寄り添い方

【公認心理師が解説】震災や事件・事故などのつらい出来事に遭遇すると、生存された方が罪悪感に苦しめられることがあります。これは「サバイバーズ・ギルト」と呼ばれるものです。安易な慰めの言葉で傷つけてしまうことがないよう、当事者の気持ちを理解し、支えていくために必要なことを解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

サバイバーズ・ギルトとは…震災や事故を免れたことによる苦しみ・罪悪感

顔を伏せている女性

つらい出来事に遭遇し、生存された方は命が助かったことによる苦しみを抱えることも多いのです

震災や事故などに遭遇され、生存された方のなかには、次のような罪悪感に苦しめられてしまうことがあります。

「私が、あの人の命を犠牲にしてしまったのかもしれない」
「どうして私だけが助かってしまったのだろう?」
「私さえいなければ、あの人を死なせることはなかったのに」
「何の役にも立たない私が援助をしてもらうなんて、申し訳ない」

このように、震災や事故などの被害に遭い、自分の命が助かったことによって罪悪感にさいなまれることを「サバイバーズ・ギルト」と呼びます。1995年の阪神大震災や2011年の東日本大震災に遭遇し生存された方のなかにも、このような罪悪感を長く抱えておられる方が少なくありません。

<目次>  

声かけが逆効果になることも……注意すべき気遣いの言葉

「サバイバーズ・ギルト」のように強い苦しみを抱えた方の話を聞くとき、私たちはつい「気の利いた言葉」を探してしまいます。ところが、逆にその気遣いによって相手の心を傷つけてしまうことがあります。

以下の11の言葉は、兵庫県こころのケアセンターが発行する『サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手引き 第2版』内の、家族や親しい友人を亡くした被災者を支えるときに「言ってはいけないこと」から一部を引用させていただきました。このように、相手を思いやる気持ちから生まれた言葉も、当事者を傷つけてしまう恐れがあるのです。

■ 家族や親しい人を亡くした被災者にかけるべきではない言葉
  • きっと、これが最善だったのです。
  • 彼は楽になったんですよ。
  • これが彼女の寿命だったのでしょう。
  • 少なくとも、彼には苦しむ時間もなかったでしょう。
  • がんばってこれを乗り越えないといけませんよ。
  • あなたには、これに対処する力があります。
  • できるだけのことはやったのです。
  • あなたが生きていてよかった。
  • 他には誰も死ななくてよかった。
  • もっとひどいことだって、起こったかもしれませんよ。あなたにはまだ、きょうだいもお母さんもいます。
  • 耐えられないようなことは、起こらないものです。
深い悲しみの中にある方の心に浮かぶ思いは、一人ひとり異なり、その思いは当事者にしか分からないものです。周囲が元気づけようとして、安易な感想やアドバイスを述べてしまうと、当事者はその言葉に逆に深く傷つき、心を閉ざしてしまうこともあります。そのため、被災された方とお話をする際には、細心の心配りが必要になるのです。
 

「かける言葉」を探すより「聴く」ことを大切にする 

被災された方の苦しみに寄り添うときには、「かける言葉」ではなく、まず「聴く」ことを大切にしていきましょう。

心を込めて、相手の話を聞くことを「傾聴」と呼びます。傾聴の「聴」は、「耳へん」に「十四の心」と書きます。そのことから傾聴は、「“十四の心”ほどのたくさんの心遣いで、相手の話に耳を傾けること」といわれています。

そして、カウンセリングの基礎を築いた臨床心理学者ロジャーズは、傾聴をする側の基本姿勢として、次の3つをあげています。

1. 自己一致 (ありのままに純粋であること)
2. 無条件の肯定的配慮 (相手を無条件に肯定して受容すること)
3. 共感的理解 (相手の気持ちになって理解しようとすること)

被災された方の苦しみは、本人でなければ分からない深いものです。聴く側が「元気づけてあげなければ」「救ってあげなければ」というように身構えていると、人の気持ちに寄り添うことはできません。

「あなたの苦しみは、おそらく私には想像もつかないものだと思います。でも、そんな私でもよければ、お気持ちに寄り添っていいですか?」

このような純粋な気持ちで接し、肯定的、受容的、共感的な姿勢で接してみましょう。すると、相手の心には「この人になら話をしてもいいかもしれない」という気持ちが浮かんでくるかもしれません。
 

無理に聞き出さず、優しくそっとしておくことも大切な支援 

ただし、無理に話を聞き出そうとしないことです。当事者の方は、話すことによってつらい体験を思い出すと、話す前よりもっと苦しくなってしまうことがあります。

「そっとしておいてほしい」「今は誰とも話したくない」、そんな気持ちでいる方も多いものです。デリケートな気持ちを優しく受け止めながら、そっと見守っていきましょう。そして、相手が話したいときにいつでも話を聴けるよう、近くで見守っていきましょう。

カウンセラーである私は、「カウンセリングは技法に頼るより、じっくり話を聴かせていただくという気持ちが大切だ」と教えられました。そんな私でも「本当に聴くだけでいいのだろうか」と不安になり、つい「かける言葉」を探してしまうことがあります。しかし「かける言葉」を探してばかりいると、「聴く」という大切な仕事がおそろかになり、相手の心が離れてしまいやすいものです。

もちろん、相手が「何か言葉をかけてほしい」と欲している場合には、役に立ちそうな情報を伝えたり、アドバイスをしてさしあげるとよいでしょう。しかし、人の心の傷をいたわる際には、言葉をかけるより先に、相手の気持ちに寄り添うこと。そして、相手が話したいタイミングでじっくり、ていねいに話を聴いてさしあげることが大切になります。

ぜひ、震災や事故に遭われた方に少しでも楽になってほしいと願う方には、このような「傾聴」の姿勢を意識されることをお勧めしたいと思います。

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