マーケティング/マーケティング事例

文庫本にも“ジャケ買い”時代の到来?(2ページ目)

最近書店の文庫本コーナーで異変が起きています。これまで堅いイメージのあった文庫本ですが、漫画コミックと見間違うような表紙の数々。この背景にはどんな戦略があるのか? 出版社が仕掛ける新たな戦略に迫ります!

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

製品寿命を延ばすライフサイクルエクステンション戦略

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
『カラマーゾフの兄弟』は製品修正を行って製品寿命を延ばした!
衰退期に売上を上げる方法はマーケティングではライフサイクルエクステンションと呼ばれ、製品や市場、もしくはマーケティングミックス(価格、流通、プロモーション)を修正していくことになります。

まず、製品修正では製品自体を改良して製品の寿命を延ばしていきます。たとえば、『人間失格』と同じ文庫本で言えば『カラマーゾフの兄弟』というドストエフスキーの120年以上前の作品がヒットした事例を以前お伝えしました。これは翻訳を現代風に見直して、訳者なりの解釈を加えることで、これまで難しいとされていた作品をより身近にすることにより製品をこれまでとは違うものに生まれ変わらせて売上の向上を実現したということになります。

市場修正は、これまでメインターゲットとしていた市場が飽和状態となったために、新たな市場を開拓することにより再び製品を成長曲線に乗せていきます。たとえば、『人間失格』は発表から60年を経て、古典文学に慣れ親しんでいる顧客層の間では飽和状態となっていました。そこで、メインターゲットを戦略的にこれまであまり古典文学を読まなかった若年層に転換することによって、市場の拡大余地が生まれ爆発的なヒットに繋がったというわけです。

最後のマーケティングミックス修正では価格や流通網、プロモーションを変更することによって、製品寿命を延ばしていくことになります。たとえば、『人間失格』は作品自体変更することなく表紙のみを変更することによって売上の向上を実現しました。新たなメインターゲットとなる若年層の注意を惹き付ける表紙を採用したことが功を奏したのです。

ここで、「表紙を変えただけで中身を変えずに本が売れるようになるのか?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ただ、答えは“Yes”です。

私自身の経験を踏まえてお伝えすると、私の最初の著書も発売当初は思ったほど売上が上がりませんでした。ところが、出版社が売上の底入れのために表紙を変えるとみるみるうちに売上が上がり、毎月のように増刷を記録したということもありました。

ですから書籍にとって中身ももちろん重要ですが、それ以上に書店でお客様に手に取っていただくという意味から表紙は購入を決定する際に非常に重要な役割を担っていると結論付けることができるのではないでしょうか。

それでは、次のページでは集英社の仕掛けるマーケティング戦略による書籍の新たな購入習慣の可能性について検討していくことにしましょう。次ページへどうぞ!
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