立派な白鳥として成長を遂げた「みにくいアヒルの子」
エスプレッソをイメージさせる広告
まずはパッケージ。ターゲットとする20代から30代の男性に受け入れられるデザインを施し、通常は缶紅茶といえば350gの大型缶が主流ですが、あえて缶コーヒーと同じ190gに設定します。これで缶コーヒーユーザーも缶コーヒーに近いものを想起して、違和感なく「エスプレッソティー」を手に取る確率を高めたのです。
また、ネーミングも「エスプレッソティー」と、まさに「ティー」がなければコーヒーと思われるようなものになっています。加えて「エスプレッソ」という言葉はこれまで紅茶とは馴染みが薄く、「紅茶なのにエスプレッソとはどんなものなんだろう?」とユーザーが目を留めて興味を示すインパクトを十分に兼ね備えているとも言えるでしょう。
そして、「エスプレッソティー」成功の最大の要因と言えるのがプレイス戦略。特にその陳列戦術には目を見張るものがあります。「エスプレッソティー」の主な販売ルートとしてコンビニエンスストアが挙げられますが、どこのコンビニエンスストアに行っても「エスプレッソティー」は缶コーヒーと同じ陳列棚で販売されています。通常、コンビニエンスストアではカテゴリーごとの陳列を行っているので、当然「エスプレッソティー」は他の紅茶と共に陳列されるはずです。ところが、パッケージを他の缶コーヒーと同じものとしたために、並居る缶コーヒーと全く同じポジションをキープすることができたのです。
現在、紅茶飲料はミルクティーやストレートティーに加え、様々なフルーツフレーバーの紅茶が数多く陳列棚に並びます。この中に「エスプレッソティー」を陳列しても、紅茶の1つのブランドとして差別化を図ることはなかなか難しいと言わざるを得ません。一方で、缶コーヒーの中に1本だけ缶紅茶が混ざっていれば、それだけでその棚に並ぶ他の商品と簡単に差別化ができるというわけです。
それは正に多くのアヒルの子の中に、1羽だけ白鳥の子が紛れている「みにくいアヒルの子」にもたとえられます。1本だけ違うカテゴリーの商品が並んでいれば、否が応にも目立ってユーザーも注意を引くことになるのです。
売り場での「みにくいアヒルの子」作戦で売上を伸ばした商品は何も「エスプレッソティー」が初めてではありません。グリコの「ちょい食べカレー」はカレーというカテゴリーにもかかわらず、温めなくてもそのままでいつでもどこでも使うことができるカレーというコンセプトでふりかけコーナーで販売したところ、爆発的なヒット商品となりました。同じくグリコの「Cheeza」は、チーズをカリカリに焼いたような濃厚なおつまみスナックですが、価格は180円前後と一般的なスナック菓子に比べると高価格に設定されています。そこで売り場をスナック菓子コーナーではなく、おつまみのコーナーに移すことにより、300円から500円程度の他の酒のおつまみと比べて相対的に安い価格を目立たせるようにしました。結果として「Cheeza」=安価なおつまみとの認知が高まり、売上を大きく伸ばすことに成功します。
そして、これら「みにくいアヒルの子」の先輩たちを見習うように、「エスプレッソティー」も缶コーヒー市場という大きな湖面を優雅に舞う立派な白鳥へと成長を遂げたのです。
今、日本経済は閉塞感に包まれ、もしかすると売上を上げることをあきらめてしまうマーケティング担当者もいらっしゃるかもしれません。ただ、これまでと同じ市場で戦うという既成概念を捨て、ゼロベースで新たな戦場を模索することにより、隣接した大きな市場に進出して再び成長路線を切り拓いてきた「エスプレッソティー」の成功は、閉塞感に悩む多くの企業のマーケティング担当者に勇気と希望を与えるのではないでしょうか。