多くの企業が抱えるブランドに関する問題とは?
企業にとってブランドは、商品やサービスを販売する上で強力な武器になります。それゆえ、コストと時間をかけてブランドを育成するわけですが、ブランドがいったん確立してしまえば、企業はそのブランドを守るために商品やサービスの品質を一定に保ち、これまでと変わらないものを提供していくべきなのでしょうか?今回はブランドとは「変えてはならないものか?」、それとも「変え続けなければいけないのか?」という多くの企業が悩む問題を、今年で10周年を迎えるキリン「氷結」のマーケティング戦略をケースに検証していくことにしましょう。
トップブランド「氷結」の成功と失敗
キリンは低アルコール飲料市場でトップに君臨する。
マーケットシェアは35%を超え、第2位のサントリーを凌いでトップに君臨しています。
キリンのRTD市場での牽引役を務める商品が缶チューハイの「氷結」。今年で10年目を迎える主力ブランドですが、今だに変わらない根強い人気を誇っています。
2001年7月にレモンとグレープフルーツという2つのフレーバーでスタートした「氷結」も、翌年から5、8、10、14と年々フレーバー数を拡大。これに比例して販売数量も2001年(6ヶ月間)の500万ケースから2005年には3500万ケースと急成長を遂げてきました。
急成長の要因には徹底した市場調査に裏打ちされた顧客から支持される数多くのフレーバーの投入があります。日経MJでは、「顔ぶれを増やしつつ消費者の指示に従ってコア商品を入れ替え、ブランドを蓄積していく」マーケティング戦略は今をときめくAKB48と共通点も多いとして、「AKB流」と称しているほどです。
ところが、長年成功を収めてきたこの「AKB流」にも異変が起こります。2007年、前年の14フレーバーを大きく上回る17フレーバーを投入して売上アップを図りますが、結果は予想を大きく裏切り30%近くも売上がダウンしてしまったのです。原因は、これまで成功を収めていた「AKB流」の多フレーバー戦略に消費者が飽きてしまい、「氷結」に対してそっぽを向いてしまったのです。
キリンはこの一件以降、様々なフレーバーを揃える「AKB流」の方向転換を行います。市場調査の結果、ゼロカロリーやアルコール度数が強いお酒が好まれるなど、消費者の嗜好が辛口に振れたことを確認すると、原点回帰するようにフレーバーをレモンとグレープフルーツに集中させた商品開発に取り組みます。この絞込みにより、今ではフレーバー自体は13種に及ぶものの、そのうち9種類はレモンやグレープフルーツの柑橘系が占めるなどこれまでの「AKB流」とは一線を画すラインナップで顧客の支持回復に挑みます。
この戦略が功を奏して6月に限定発売された「氷結 ルビーグレープフルーツ」は予想を上回る売れ行きとなり、前倒しで販売を中止せざるを得ない状況を実現。かつての輝きを取り戻すことに成功したのです。