ビジョンを引き出すコーチング的問いかけ
営業マンがお客様との付き合いが長くなり信頼関係ができてくると、さらにつっこんだ課題や目標を扱うようになります。そんなとき、お客様を一歩先に前進させることが必要となることがあります。たとえば、お客様が最近社内のコミュニケーションがもっと活発になるといいのに……と漠然としたビジョンを持っている場合、営業マンが
「コミュニケーションが活発になると、御社の社員はどう変わりますか?」
「今はできていないことでも、活発になると何が変わると思われますか?」
「コミュニケーションを活発にすると、御社の雰囲気はどうなるんでしょうか?」
など問いかけながらお客様のビジョンを明確にしていくと、現実味を帯びてきます。 ビジョンは文字通り「像」ですが、それを認識するには具体的に声に出して話すことが必要です。なぜなら、私たちが物事を認識するときは、外部からの情報を五感で捉えて実感するからです。自分の考えていることも、声を出して自分の耳を通して聞くことで初めて認識できるようになります。何となくもやもやしていることを声に出して話したら、はっきりしたという体験は誰にでもあることでしょう。
単なる自社商品やサービスの説明だけでなく、お客様の会社が持っている課題や目標に対してより深く関わりお客様に貢献するには、このような問いかけを使ってビジョンを作っていきます。
具体的なビジョンを作る上で有効な問いかけは、次の3つのポイントを意識してみましょう。
1.お客様と真正面に向き合わない
「御社がこのサービスを利用したら、どうなりますか?」と向き合って前のめりで聞いてしまえば、お客様はプレッシャーを感じて引いてしまうでしょう。ビジョンは最初のうちは形がなく漠然としています。いくつかの問いかけしながら具体的で明確にしていきますので、リラックスした状態でお客様が話しやすい環境づくりが肝心です。
座る位置は正面で向かい合って話すというより、90度の位置にしたり、部屋の右手に大きなキャンバスがあって、そこに一緒にビジョンを描くことをイメージするといいでしょう。視線を同じ方向に向けるように工夫すると、正面切って話すよりリラックスして話しやすくなります。
2.少し先の未来を見せる
「社内のコミュニケーションがどうなるといいと思っていますか?」など現在に近い時間軸で問いかけると、今ある選択肢からしか選ぶことができず答えに窮します。ビジョンはあらゆる可能性に向けて意識を広げるプロセス。時間軸も様々な未来においたほうが語りやすくなります。先ほどのケースでより具体的にイメージしてもらうには、少し先の未来について話すことです。「1年後には、社内の雰囲気は今とどのように変わっているといいですか?」
「弊社のサービスを利用していただくとしたら、どんなことが達成されると想定していらっしゃいますか?」
「このサービスを導入すると、どの部署の誰が負担が軽くなったり業務がよりレベルアップしますか?」
「3ヶ月のスパンで考えると、どんなことが変わるでしょうか?」
これらの問いかけによって、お客様が描いているビジョンのキャンバスに様々な時間軸や人を登場させ、情景を描き検討するというイメージを持つことができます。
3.問いかけ続ける
たとえ明確なビジョンを描いたとしても、ビジョンはすぐに消えてしまいます。というのは、ビジョンは記憶できないからです。1回作ったから安心するのではなく、そのことについて常に相手に問いかけ続けることが肝心です。「前回伺ったとき、3年後のイメージを教えてくださいましたが、その後何かイメージは変わりましたか?」
「その後、新たにお考えになったことはありますか?」
1回話したからといってそれを鵜呑みにしないで、継続的に問いかけ続けること。ビジョンを定着させるには、それしか方法はありません。
営業マンは、売る人ではありません。お客様のニーズを把握し、お客様がより成功するようにともに考え、サービスや商品を通じてそれを実現するパートナーです。
ある企業向け人材育成のプログラムを提供している会社の営業マンは、3年かけて大規模な組織変革プログラムの導入に成功しました。今の組織風土の課題は何か、プログラム導入は誰に対して最初に行うのが効果的か、それが終わったら次の世代はどのように引き継ぐかなど、数年にわたるビジョンを担当者の方と作り続けることにより、大規模のプログラム受注につながった例があります。
ビジョンは現実になる
ビジョンを語り続けると次第に定着します。お客様とともにビジョンを作ることを通して未来を語り、多くの人を登場させ、その中における自分のポジションや周囲の影響などがくっきりと見えるようになると、その人のストーリーとなり実現するために行動を起こしやすくなります。
あなたは、お客様とどんなビジョンを作りますか?
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