マーケティング/マーケティング事例

表紙を変え大ヒット! 今なぜ人間失格なの?(2ページ目)

2007年6月に、装いも新たに発売された太宰治の『人間失格』。発売後50年以上経っているというのに、わずか1ヶ月半で異例の7万5千部を売り上げました。果たしてこの背景には何があるのか?詳しく調べてみると……。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

パッケージを変えただけで売上が上がるのか?

果たして、表紙を変えただけで本が爆発的に売れるということはありえるのでしょうか? 実はマーケティングの世界では、商品の中身は変わらなくともパッケージを変更しただけで売上が大幅に変わることは、よくあることなのです。『人は見た目が9割』というベストセラー書籍がありましたが、商品も『見た目が9割』、つまりパッケージは非常に重要な売れる要因になるということなのです。

たとえば、マーケティングで消費者の行動心理を表したものにAIDA(AIDMA)の法則というものがあります。人はまず商品に気付いて(Attention)、興味を抱き(Interest)、欲しいという欲求が起こって(Desire)、購入(Action)に至ります。

つまりマーケティングでは、いかに消費者の注意(Attention)を引くかが商品がヒットするかしないかの大きな分かれ目になります。消費者の注意を引かないものが購入される確率は、ほとんどゼロに等しいのです。そういった意味でパッケージは商品の品質以前に最初に消費者の目に留まるもの。パッケージを消費者の注意を引くものにする重要性は想像に難くないでしょう。

2350万部を超える売上を誇るコミックのイラストが表紙に描かれた書籍というのは、当然これまで『DEATH NOTE』を読んできた多くの消費者の注意(Attention)を喚起するには、十分な仕掛けということができます。

ただ、『人間失格』を爆発的にヒットさせた仕掛けはこれだけではありません。まだまだ他にもあるのです。

商品の寿命を延ばすライフサイクル・エクステンション

人間失格
発売後50年を経て衰退期を迎えていた『人間失格』を甦らせたマーケティングテクニックとは?
『人間失格』は50年以上前に出版された、商品のライフサイクルで言えば「衰退期」に当たる商品です。通常であれば、急激な売上の拡大は見込めない商品です。それではなぜ今回のような爆発的なヒットが起こったのでしょうか?

マーケティングでは商品の売上が鈍って衰退期を迎えた時、商品に革新的な改良を施したり、これまでとは全く違った市場を開拓したり、商品寿命を延ばすライフサイクル・エクステンションという手法が取られます。この手法に基づけば『人間失格』も現代風にアレンジしたり、違う市場に売り込んだりすることで、商品寿命を延ばすことができるというわけです。今回集英社が狙ったのが後者だったのです。

これまで『人間失格』を読んできたのは、活字文化になれた比較的年配の読者層でした。表紙に『DEATH NOTE』の作画担当のイラストを採用することにより、全く古典的名作に縁のなかった活字離れしていた読者層を引きよせ、新たな市場を開拓することに成功したというわけです。

漫画に慣れ親しんだ若年層は、古典的な名作に関心のある読者層の何倍もの規模を誇ります。古典的名作の表紙にあえて現代風のイラスト採用することにより、他の作品との差別化を図り、これまでとは全く違った顧客層にアピールする。今回の集英社が立てたマーケティング戦略は、思惑通りこれまでターゲットとしてこなかった消費者の心を捉え大成功を収めたと言えるのではないでしょうか。


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