ゼロサムゲームが繰り広げられる飲食業界
牛丼業界が苦戦しているのは何も同業他社の値下げ競争に巻き込まれているだけが原因ではありません。飲食業界においては業界の垣根を越えたゼロサムゲームが展開されており、異業種間で顧客の奪い合いが起こっていることも大きな要因です。人は1日に食事を3回取ることが一般的ですが、ある場所で食事を摂れば他の場所で食事を取る機会はなくなってしまう。たとえば、家で食事を摂ったりランチに弁当を持参したりすれば、もちろん牛丼店で食事を摂ることはありません。最近では内食に加えて、スーパーが低価格のお弁当に力を入れ、安いものでは200円台でボリュームのあるものも珍しくなくなったために、低価格のお弁当で昼食を済ます人も相当数に上っています。
つまり、牛丼チェーンは同業ばかりでなく、内食やスーパーの低価格弁当、他にもマクドナルドを始めとした他の外食チェーンにも注意を向けての価格戦略を練る必要があるのです。
日本フードサービス協会が2010年1月25日に発表した統計によれば、外食産業は消費者の節約志向の高まりや低価格化によって客数こそ0.2%増加しました。客単価が4年振りに1.7%低下した結果、年間の売上は6年振りに1.5%減となり前年を下回っています。
日本経済が混迷を極めるなか、外食産業の低迷と共に今後牛丼業界も厳しい事業展開を強いられることが予想されますが、吉野家が再び輝きを取り戻す起死回生のマーケティング戦略はあるのでしょうか?
ポジショニングの変化による競争の回避は可能か?
マーケティング戦略において、業界他社と事業の軸をずらして直接の競争を避けるという手法も用いられます。それが、ポジショニング戦略です。たとえば、飲食業界と同じく、カジュアルウェア業界も激しい競争が展開されています。2008年アメリカで高い人気を誇るフォーエバー21が、日本市場に再参入してユニクロとの競争が話題となりました。ポジショニングマップを描いてみると、業界内の位置取りが微妙に違っていて直接の競合ではないことが伺えます。ポジショニングマップを描くと業界内の競争構造が一目瞭然となる
ただ、残念なことに牛丼業界の3社は20歳から50歳くらいまでの、食事にあまり時間やお金をかけたくない男性という同じポジションで激しい競争を繰り広げています。ブランドもすでに確立している吉野家では今さらながらにこれまでとは違ったポジションに変更することも難しいと言えるでしょう。