マーケティング/マーケティング事例

牙を抜かれた吉野家に起死回生の戦略はあるのか?(3ページ目)

近年の消費者の節約志向の高まりは、かつてのデフレ経済の下、280円の牛丼で躍進を遂げた吉野家にも暗い影を落としています。BSE騒動の影響で、原料の仕入れ値が高騰を続け、「安い」という牙を失った吉野家にカツと輝きを戻す秘策はあるのでしょうか?吉野家のマーケティング戦略を追う!

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド

吉野家はリーダー? それともチャレンジャー?

ライバル企業とのポジショニングの変更が難しいようであれば、すき家や松屋との正面きっての勝負となるわけですが、どのような戦略で自社の売上を向上させることができるでしょうか?

吉野家が業界のリーダーという立場であるならば、コストリーダーシップを発揮して業界最安値で2番手以下のマーケットシェアを奪っていく戦略が定石です。

ただ、ライバル各社が相次ぎ値下げで顧客を呼び込むなか、吉野家は期間限定のキャンペーンで対抗を試みるものの、現在のファン客に支持される「うまさ」を維持するために、継続的な値下げは行わないことを決定しています。アメリカのBSE騒動後、牛肉の出荷規制のために原材料は高騰を続け、吉野家の原価率はオーストラリア産牛肉を使用するすき屋の1.5倍にも達しています。加えて、今期13億円の最終赤字を見込む吉野家に、値下げする体力は残されていないと考えるのが妥当でしょう。

それでは、リーダーではなくチャレンジャーという位置付けですき家を打ち負かそうと考えるなら、差別化を実行していく必要があります。吉野家自身これまで牛丼以外にも様々なメニューで差別化を図ろうとしてきましたが、なかなか定着しているものはありません。今後はいかに新メニューを充実させ、他社と差別化していくかが鍵となるでしょう。

売上を上げる3つの要素とは?

続いて吉野家のマーケティングを、より戦術的な観点から見ていくことにしましょう。マーケティングにおいて、売上を上げるためには顧客数をアップさせるか、平均単価をアップさせるか、リピート回数をアップさせるかしかありません。

■顧客数
顧客数をアップさせるためには値下げが有効な手段になりますが、値下げをしないとするならば、魅力的な商品作りが重要な鍵を握ります。消費者の節約志向が高まるなかでも、マクドナルドがクオーターパウンダーやテキサスバーガーという魅力ある商品を投入して、話題を集めて顧客数を増加させることに成功したように、吉野家も価値ある新製品の開発に努め、新たなお客様を開拓する必要があります。

他にも顧客数をアップさせるという観点からは、友達と一緒に来店すれば一定の割引を行うという来店促進キャンペーンなども考えられるでしょう。

■顧客単価
顧客単価を向上させるためにはクロスセリングとアップセリングが有効だ。マクドナルドでハンバーガーを頼むと、「ポテトも一緒にいかがですか?」と関連商品をお勧めするクロスセリングが実施されているように、牛丼を頼んだお客様に味噌汁やサラダなど関連商品を勧めることによって顧客単価を向上させることが可能です。他にも「究極の牛丼」のような舌の肥えた牛丼ファンを唸らせる高額メニューを開発して、アップセリングを行い顧客単価を引き上げることもできるでしょう。

■リピート率
最後にリピート率の向上では、来店したお客様に会計時に次回利用できるクーポン券を配ったりポイントカード的なシステムを導入し、一定の来店があれば牛丼1杯をサービスしたりするというような施策も功を奏するでしょう。

また、牛丼がいくら「うまい」ものでも、いつも同じものしか提供しなければ、顧客には飽きがきてしまいます。1日3食、365日同じものを食べることができないとすれば、やはりバリエーションを増やして飽きのこないメニューを実現し、毎日でも来店いただける体制を整える必要があると言えるでしょう。

吉野家が変えてはいけないもの、変えなくてはいけないもの

吉野家が変えてはいけないもの、変えなくてはならないものとは?

吉野家が変えてはいけないもの、変えなくてはならないものとは?

吉野家は、お客様に愛されている味を変えることはできないと宣言しました。確かにブランド企業にとって変わらないことは重要かもしれません。ただ、環境が大きく変化しているなかで、ユニクロやマクドナルドのように常に自社商品の品質向上に努めて変わり続けなければ、いかにブランドが確立しているといえども生き残ることは難しいビジネス環境にいま多くの企業が置かれています。やはり現代の企業は、変えることのできないことと変えなくてはいけないことを常に念頭に置きながら、マーケティング戦略を検討していく必要があるのです。

果たして、「うまい、やすい、はやい」で牛丼界をリードしてきた吉野家は、「国民の胃袋」を狙った激しい競争が繰り広げられる外食産業で、どのような戦略を駆使して再び輝きを取り戻すのでしょうか? 今後のマーケティング戦略に注目が集まります。
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