デフレ下に苦闘する吉野家
2009年12月期に前年同期比22.2%の売上減を発表した吉野家
牛丼と言えば「吉牛」と言われるほど業界で確固たる地位を築いてきた吉野家ですが、既存店の売上高はここ最近前年同期比を上回ることなく90%前後で推移しています。そんな悪戦苦闘する吉野家に、さらに衝撃的なニュースが走りました。
2010年1月14日に発表された2009年12月期の売上は予想以上の落ち込みとなり、既存店ベースでは何と22.2%と大幅な減少を記録したのです。前年同月に「師走のくいてー!祭」を開催したことで売上が底上げされていたことが原因とはいえ、無視できない売上の落ち込み。果たして、かつての牛丼業界の王者吉野家に今何が起こっているのでしょうか?
マクドナルドの平日半額キャンペーンで、ハンバーガーが65円で買えるなど外食産業にデフレ圧力が高まっていた2001年、吉野家は牛丼に特化して仕入れやオペレーションコストを最大限に抑え、当時1杯400円であった牛丼価格を280円にまで引き下げ顧客を増やすことに成功にしました。ところが、牛丼に特化した戦略が2003年のBSE騒動で裏目に。それまでの強みであった牛丼に特化してコストリーダシップを発揮していたビジネスモデルが、牛肉の輸入停止で事業存続の危機に立たされたのです。
このBSE騒動を教訓に吉野家は多角化を推し進め、2004年6月には讃岐うどんチェーンのはなまるうどんを、2007年8月には189円ラーメンを目玉に事業を展開していたびっくりラーメンを買収。2007年12月にも業績不振で支援先を探していたステーキレストラン最大手の「どん」を子会社化しています。
ただ、いずれの買収も現在はグループの足を引っ張る状態です。はなまるうどんは業績不振から株式の評価損を計上。どんは昨年O-157による食中毒が発生し、売上利益共に大きく減少しました。また、びっくりラーメンに至っては業績回復の兆しが見えず、2009年8月末で清算してしまいました。
突如新盟主に躍り出たすき家との激しい争い
このように牛丼業界において、王者吉野家が足踏みをしている最中に新盟主に名乗りを上げたのがすき家。店舗数では2009年12月末現在で1366店と吉野家の1164店を大きく引き離し、日本最大の牛丼チェーンとなっています。すき家を運営するゼンショーは、すき家の他にも牛丼カテゴリーでなか卯、ファミリーレストランでココスやビッグボーイなど一大外食グループを形成し、グループ全体の売上高は2009年3月期で3100億円、経常利益で60億円とそれぞれ1700億円、40億円の吉野家グループを大きく上回っています。そこで、新盟主となったすき家は自社のマーケットシェアをさらに拡大するために、体力にものを言わせて価格でライバル吉野家を圧倒する手段に打って出ました。かつて吉野家が取った業界リーダーが、他社から顧客を奪い取る常套戦略です。
牛丼業界では、経済環境の悪化やデフレの進行で消費者の財布の紐が堅くなるなか、下がり続ける売上に対して打開策の一環として、業界の第3勢力である松屋が350円の牛丼を320円に値下げするという価格戦略に踏み切りました。ただ、いくら値下げしても来店客の増加に繋がらなければ、結局は売上減に繋がるという理由でライバル各社は静観の構えを見せていましたが、新盟主のすき家は期間限定のキャンペーンとして牛丼1杯を299円に値下げしてテストマーケティングを実施。
このキャンペーンで値下げが来店客の増加に繋がり、売上増に繋がることを確信すると、キャンペーン終了の翌日からさらに値下げを行い280円に新価格を設定。この価格戦略が功を奏して、2009年12月は既存店で売上単価は87.7%に落ち込んだものの客数は115.9%を記録。前年同月比の売上は実に11カ月振りに100%を超え101.6%となりました。
一方で吉野家は、第3勢力の松屋やすき家の容赦ない価格戦略により、都心店では2%、そして郊外店では5%程の顧客が離れていった結果、前年同期比77.8%と屈辱的な売上の落ち込みを記録したのです。