収益の分配方法は?
「LLPは、基本的に、資本の出資金の多さで利益配分が決まるという組織ではないので、役務の担い方とそれに対する評価を、組合員同士のコミットで決めます。Vanilla Manでは、原則的に、均等配分。メンバー4人なので、利益の25%を配当します。」職責や仕事量は、当然イーブンという訳にはいきません。そこで、3ヶ月毎に全員で話し合って、25%の半分の12.5%を調整分としているそうです。売上貢献度は、数量的に計れない部分もありますから、全員が納得する分配方法というのは、なかなか難しいのではないかと思います。ビジネスにおいて、お金はトラブルの元。それだけに、LLP設立の際に作成する「組合員契約書」に記載する各メンバーの「役務」の内容と取り決めが重要になりそうです。
「また、収益配分だけでなく、資産の配分もあらかじめ考えておかなかければなりません。」事業が軌道にのれば、事業体の資産も増えていきます。それらの分配をどうするか、事前に話し合っておくことが必要になります。
LLP運営上のメリット、デメリットは?
LLPには、時限性という特徴があり、登記をする際に、組合の存続期間を記入します。Vanilla Manの存続期間は10年。これは、LLPが、個人や企業の共同事業の受け皿として機能することを前提にしているためです。(※存続期間は、延長することができます。) |
メリットとして感じるのは、パススルー課税です。各自、仕事を持っていますから、損失が出た場合、本業と相殺(損益通算)できるというのはいいですね。それから、決算時に提出するのは、貸借対照表と損益計算書だけなので、内部にアカウンティングの専門家がいなくても大丈夫です。」
LLPが画期的な点は、組織自体に課税されず、構成員へ直接課税されるパススルーの制度です。今年5月に施行された新会社法で、新たに出来たLLCには、このパススルー課税は、採用されませんでした。(※参照:「新会社法の改正点、要チェック!」)そのため、このメリットを持つ組織体は、LLPのみとなっています。
「デメリットは、新しい組織形態なので、社会的信用度は予想通り無いですね。(笑)これは、LLPの知名度がまだまだ低いということです。」
組合組織のデメリットして、経営の主体が分かりにくいということが挙げられます。それは、同時に責任の所在が不明瞭ということにもつながります。
「責任は、みんな平等という考え方です。しかし、実務上は、誰か1人が矢面に立つかたちにはなってしまいます。言い出しっぺが、最終的に矢面に立つことになりますね。これは、メンバーの成熟度にもよるところが大きいと思いますが。メンバーが、十分なキャリアやスキルを持つ場合は、自主的に動いてくれますから、1人に大きく比重がかかることはないと思います。」
メンバーから、LLPを設立しての感想
LLPを設立して約半年、現在の感想をメンバーの皆さんからいただきました。代表の渡部さん:
実際にLLPを作って感じているのは、LLP成否の鍵は人の選定にある点です。LLPの役務分担という仕組みは、人の能力に大きく依存してしまうからです。私達のLLPはまだ成功したといえる段階には来ておりません。又、メンバー間の仕事のやり方も確立の為に試行錯誤を続けている段階です。ただ、自分に無い能力を保有するメンバーが近くにいるという力強さは何物にも変えられません。一人の力では達成できないプロジェクトを実現する器としてLLPを今後も活用して行きたいです。又、その力を引き出せるよう努力を欠かさないで行こうと考えております。
サポート役の許斐さん:
仲間うちで起業する、「ノリ」重視の起業形態であれば、組織に縛られずに、組織のうまみを得ることができるLLPが最適なのではないかと思います。ただし、それは個々人のメンタリティへの依存度の極めて高い、不確実性を常に内包した組織形態であることを自虐的に認めていると言い換えることもできます。「何が何でも成功させる」という強固な意志やビジョンを一切持たず、「飽きたらやめればいい」「面白いからやる」といういわゆる『現代の若者的思考』(!)が、どちらの方向に転ぶのか、とても楽しみです。
システム担当の東漸さん:
私達のLLPにはWebというメディアの様々な側面におけるプロフェッショナルが集まっています。まだLLPが出来てから日も浅く、お互い専門分野も違うため仕事の進め方などが確立仕切れていない部分もありますが、各々の長所とLLPという組織形態を生かした独自の展開をして行きたいと思っています。また自分自身も、LLPでの経験から様々な事を学んでいきたいと思います。
デザイン担当の土屋さん:
LLPは、組合の仕事と個人で受けるプロジェクトを併走できることがいいところだと思います。組合の売り上げも個人で処理をすることになるので、フリーで仕事をしていたときの人脈や仕事の状態を維持したまま、今まで個人では受けることのできなかった新たな分野に対応できる組織を設立できる。これは、現在フリーランスで仕事をしている人にとっては、適した組織形態なのではないでしょうか。まだ、できてから間もない組織ですが、より多くの経験を積んでいきたいと思います。
<取材協力>
デジタルハリウッド大学大学院
取材後記
Vanilla Manは、“オーソドックスな男”という意味だそうです。「尖がった人間が集まっているので、ワークスタイルもライフスタイルも、少しもオーソドックスではないけれど、数年後は、自分たちのスタイルが普通となり、オーソドックスになるのではないか」と考えて名付けたそうです。LLPは、資金だけでなく、個々の技術やノウハウを持ち寄り、新たな共同事業を起こすための事業体です。LLPの魁として、今後の活躍を期待しています!
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