共同化・表出化・連結化・内面化の4つのプロセス
目に見えない知識に光を当てた日本発のマネジメント論 |
まずは、前ページの図にある4つのプロセスのそれぞれを簡単に説明しましょう。
■共同化(暗黙知→暗黙知):OJTや共通体験を通じて、暗黙知を伝達・獲得するプロセス。例えば、トップセールスの先輩の営業に同行させて、言葉で表現しにくい臨機応変のやり取りを学ばせるなど。まずは「やってみせる」ことです。
■表出化(暗黙知→形式知):言葉や図などによって、暗黙知を形式知に変換するプロセス。例えば、トップセールスが顧客とのやりとりの手順や使っているツールなどを明確にして、フローチャートに落とし込むなど。マニュアル化はこれに当たります。こうやって、言葉や図にしてはじめて、「言って聞かせる」ことが可能になります。
■連結化(形式知→形式知):言葉などで表現された形式知を材料に、新たな、体系的な知識を創造するプロセス。表出化によって言葉や図に落とし込んで、それを眺めてみると、非効率な箇所などが見えてきて、改善が可能になります。また、複数のやり方を比較することで、よりよいやり方を創り出すことができます。暗黙知のままでは難しい、グループや組織による創造力を引き出していくプロセスです。
■内面化(形式知→暗黙知):実践や体験を通じて、形式知を体得するプロセス。「わかる」ことと、実際に「できる」ことは違います。マニュアルに落としこんで整理されたトップセールスマンの手順どおりにやってみたからといって、すぐにトップセールスマンになれるとは限りません。部下が実際の体験で試行錯誤を重ねながら、自分のものにしていくことが必要なのです。つまり、部下に実際に「やらせてみる」こと。頭でわかったことを、実際にできるように身体に落としていくプロセスです。
多くの日本企業で見られる「見て盗め!」式教育は、暗黙知のレベルでのやり取りにとどまり、4つのプロセスの「共同化」だけになります。マニュアルの作成は、「表出化」、さらには「連結化」に該当しますが、多くの日本企業ではこの2つのプロセスが抜けており、知識を伝えたり、創造していくパワーやスピードにおいて、どうしても欧米に後れを取ってしまいます。
もちろん、すべての知の源泉は暗黙知であり、形式知だけを操っても限界があります。日本企業の強みとも言える暗黙知をさらに生かすためにも、暗黙知の重要さを認識しつつ、マニュアルを作成するといった形式知の活用が、暗黙知のさらなる活用につながっていくのです。
上司と部下が協力してプロセスを加速させる
それでは、上司が今からマニュアルをせっせと創る必要があるのでしょうか? ただでさえ忙しいのに、なかなかそのための時間を生み出すのは難しいかもしれません。ここで一つのお勧めの方法があります。それは、部下に仕事を観察させて、そこで気づいた仕事のポイントをメモしてもらうことです。そのメモを提出してもらい、それをもとに教育していくのです。これによって次のようなメリットが考えられます。
● 部下がどれだけ、どのように学んでいるかがわかる
● 上司自身も気づかなかった仕事の新しい見方が得られる
● 部下が集中して仕事を観察するようになる
● 部下自身にとってわかりやすいマニュアルができる
上司も部下も当事者となって、知識の移転・変換、さらには創造のプロセスを回していくことで、部下はもちろん、上司、組織の成長が加速していくのです。
「見て盗め!」だけの教育から、部下と一緒に知識を創造し、組織を成長させる教育に進化していきましょう!
【参考書籍】
■『知識創造企業』(野中郁次郎・竹内弘高著 梅本勝博訳 東洋経済新報社)
■『教育力』(齋藤孝著 岩波新書)
【参考サイト】
■@IT情報マネジメント用語辞典
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