イチローは湿気という微妙なものが与える影響までも意識することができたわけです。そして、その微妙な重さの違いによって、投げるフォームを変える。これは、打つときも同じです。ボールと同じように、湿気の違いによるバットの重さの違いを感じ、それに応じてバッティングフォームを微調整しているのです。
どのボールも同じ重さだと思い込んでいる選手と、ボールには重さの違いがあると思っているイチロー選手とでは、その感じ方、そしてプレーの質に差が出るのは当たり前です。
相手の状態を感じる力
それでは仕事の場面で考えてみましょう。例えば、簡単なところで、「おはようございます」という挨拶を取り上げます。
「おはようございます」
毎日繰り返される同じ言葉。ほとんどの人にとっては、“同じ言葉”ですし、そう思い込んでいるでしょう。でも、もしイチローだったらどう受け取ると思いますか?
乾いたボールと湿ったボールの重さを感じるように、イチローなら、例えば、乾いた「おはようございます」と湿った「おはようございます」の違いを感じるでしょう。同じ「おはようございます」という言葉であっても、すべて同じだと思い込まずに、その微妙な違いに意識を向けていくはずです。
そして、その違いによって、対応を変えていく。例えば、その人にかける言葉の種類、言い方、ペースなど、その巧みなバットコントロールと同じように、相手の状況に応じてさまざまなコミュニケーションを使い分けるでしょう。
まずは、相手の言葉のさまざまな側面に意識を向けてみましょう。例えば、「その言葉の”重さ”はどれくらいでしょう?」。重さだけではなく、速さ、滑らかさ、高さなど、いろいろな側面が考えられます。まずは手始めにそんな側面に意識を向けて、言葉それぞれの違いに気づいてみてください。