秋の空のことわざといえば、「女心と秋の空」?「男心と秋の空」?

「そりゃ女心だろ」 「違うわ!男心よ」

「そりゃ女心と秋の空だろ」 「違うわ!男心と秋の空よ」

突然ですが、問題です。変わりやすい秋の空模様と移り気な心模様を重ねたことわざといえば、何でしょう?

A:「男心と秋の空」
B:「女心と秋の空」

実は、どちらも正解です。しかし、そのニュアンスが微妙に違うから面白いですよ。
   

なぜ「秋の空」は移り気なの?

秋晴れも長くは続かず……「○心と秋の空」

秋晴れも長くは続かず……「○心と秋の空」

そもそも、どうして「男心と秋の空」「女心と秋の空」という風に言うのでしょう?

秋の空は、空気も澄んでおり、すがすがしい青空が広がります。抜けるような青空を「秋晴れ」といったり、「天高く馬肥ゆる秋」といったりしますが、これは、夏は太平洋高気圧で湿った空気中の水蒸気に光が乱反射して白っぽく見えるのに対し、秋は移動性高気圧の乾いた空気のために澄み渡り、いつもより上空の雲までよく見えるからです。だから、秋の月が美しく見え、お月見にも最適な時季なんですね。

ところが、低気圧と高気圧が日本の上空を交互に通るため、お天気が変わりやすいのもこの時季の特徴で、これを変わりやすい人の心になぞらえ、「男心と秋の空」「女心と秋の空」と言うようになりました。

ことわざ「男心と秋の空」ができた理由

移り気なのは、どっち?

移り気なのは、どっち?

もともとは「男心と秋の空」です。男性の変わりやすい心を例えていますが、主に女性に対する愛情が変わりやすいことをさしています。

「男心と秋の空」のことわざができたのは江戸時代。当時は既婚女性の浮気は命を落とすほどの重罪でしたが、既婚男性の浮気には寛大だったこともあり、移り気なのはもっぱら男性だったのです。また、若い娘に男性を警戒するよう戒めたり、ふられた際の未練を断ち切る慰めにも使われました。江戸時代の俳人・小林一茶は「はづかしや おれが心と 秋の空」という俳句を詠んでいます。

それ以前の和歌でも男心は移ろいやすいものとして扱われ、室町時代の狂言『墨塗』に「男心と秋の空は一夜にして七度変わる」という有名なセリフがあります。

 

「女心と秋の空」の意味と英語のことわざ

「女心と秋の空」ということわざが表す女性の「移り気」とは、愛情に限らない点で、男性とはニュアンスが異なります

「女心と秋の空」ということわざが表す女性の「移り気」とは、愛情に限らない点で、男性とはニュアンスが異なります

では、「女心と秋の空」と言われるようになったのは、いつごろでしょう?

明治時代の尾崎紅葉の小説『三人妻』に「男心と秋の空」がでてきますが、「欧羅巴の諺に女心と冬日和といえり」と続きます。おそらくこれは、イギリスの「A woman‘s mind and winter wind change often」(女心と冬の風)ということわざのことで、強風や弱風に変化しやすい冬の風を女心にたとえたもの。この頃から変化の兆しがみえてきます。

その後、大正デモクラシーで女性の地位が向上すると、恋愛の価値観も変わります。当時、一世を風靡した浅草オペラで、『風の中の 羽のように いつも変わる 女心――』と歌う『女心の歌』が大ヒット。西洋文化の影響で女性が素直に意思表示できるようになったこともあり、この頃から「女心と秋の空」とも言われるようになりますが、愛情に限らず、喜怒哀楽の感情の起伏が激しいことや物事に対して移り気なことを示しており、男心とは少しニュアンスが違うようです。
※ヴェルディ作:歌劇「リゴレット」第3幕より

「女心と秋の空」「男心と秋の空」現代ならどちらを使う?

晴れたり、曇ったり、雨になったり。秋の空は移ろいやすいのです

晴れたり、曇ったり、雨になったり。秋の空は移ろいやすいのです

昭和に入って徐々に女心も定着していきますが、あの『広辞苑』に初めて掲載されたのは1998年の第5版。つい最近のことなんですね。今でも、ほとんどの辞書が男心をメインにしており、女心が載っていない辞書も多いのです。

【掲載例】

『心の変わりやすいことのたとえ「男心と――』 <広辞苑:2008年第6版>


『男性の女性に対する愛情が変わりやすいこと。「男心と――」/男性の立場からこれをもじって「女心と――」ともいう。』 <明鏡国語辞典:2003年初版>


『異性の変わりやすい心の意にも用いられる』 <新明解国語辞典:2005年第6版>


男女が入れ替わったり、意味が微妙に違っていたり。この言葉自体が“秋の空”のようですが、どちらを使っても間違いではありません。さて、あなたならどちらを使いますか?
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