硝煙の香りの名脇役

輿水精一チーフブレンダー
輿水精一チーフブレンダー/川田雅宏撮影
覚えていらっしゃる方も多かろう。2006年10月、NHK『プロフェッショナル』でサントリーチーフブレンダー輿水精一氏を取り上げた。番組は新製品開発で苦闘する彼を執拗に追っていたが、その製品がついに2月5日発売になった。シングルモルト白州25年(¥100,000)がそれだ。

気になっていたことがある。番組中、硝煙のような香りの個性の強い原酒に執心する輿水氏の姿があった。他よりも尖った香味の原酒を最終的にどう扱ったのだろうか。
白州蒸溜所ではホッグスヘッド樽を主体に使用しているが、多様性を求めて他の樽種でも原酒の貯蔵熟成をおこなっている。硝煙と表現された原酒はシェリー樽で熟成させたもので、非常に稀な香味熟成をした。
「極少量ですが使用しました」と輿水氏は答え、「他の原酒の香りをうまく引き出し、香味の複雑さや厚みを生み出す役割を担っています」と教えてくれた。

シングルモルト山崎やブレンデッドの響に使われているミズナラ樽熟成原酒と似た役目を担ったようだ。オリエンタルな独特の香味を持つミズナラの原酒は、少量の使用であっても香味に煌めくような透明感を与え、エステリーといわれる甘い香りをより華やかに立ち上らせる。硝煙のような、とたとえられたシェリー樽熟成原酒もまた、同様に名脇役を演じている。

長熟シングルモルトの深遠さ

シングルモルトウイスキー白州25年
シングルモルトウイスキー白州25年
さて、試飲。最初に感じた香りは、濃厚な果実香。ジャムのような、またチョコレートのようなまったり感もある。こころを鎮めて嗅いでいくと、熟柿やマンゴーの香りを想う。全体的に25年を超えたモルト原酒の深遠な熟成感がありながら、柔らかな印象がある。

味わいは円熟芳醇。口にすると柔らかさ、しなやかさの印象はより強まる。これは25年超の年月を経ても、森の蒸溜所が育んだ白州モルトの特長“すっきりとしたキレ”を失うことなく保ちつづけているからなのだろう。
ほどよい酸味がとくに印象的だった。濃縮された果実のような甘さ、クリーミーさのなかに潜む酸味が心地よい。そして甘酸が溶けあった濃厚なコクにつづくアフターテイストは、白州ならではのもの。スモーキーでフルーティーな口中香は長く、秀麗だ。
輿水チーフは「ストレートで味わっていただきたい」と言っていたが、当然の助動詞“べし”である。この柔らかさ、しなやかさはストレートで体感するべきのものだ。次頁ではこの白州25年の香味を形成した、もうひとつの特長である後熟について語る。
次頁へつづく)