小屋のボトル棚にはウイスキーが3本。あとはカリブのラムのボトルばかり。3本のウイスキーとは、ジョニ黒、バランタインファイネスト、バランタイン17年だった。
訳ありマダムの登場
上/警官も古式ゆかしき姿。下/ホテルのプール。この上がバー。 |
すぐにわかったのだが、大柄な彼は動きたくなかったのだ。ホワイトスピリッツやリキュールは屋内の食堂に取りに行かなくてはならない。氷とソーダやライムは屋台にあるから、それらとボトル棚にある酒、あとはビールで愉しんでくれ、という彼の願いがひしひしと伝わってきた。
14年前のその頃、私はハイボールを好んで飲むことはなかった。ウイスキーは単純に強いほうがよくて、ストレートかロックでしか飲まなかった。ところが怠け者のバーテンダーがソーダ割りの旨さを教えてくれたのだ。
高台にある屋台バーで飲むスコッチ・ソーダは旨い、としかいいようがない。昼間の熱を夜になっても抱いたままの体にクールに沁みていく。海から入り江の斜面を駆け上がってくる涼風との相乗効果で、爽快感が増すのだ。
「ハイボールって旨いんだな」と、その時はじめて実感した。
3夜ともスコッチ・ソーダの一杯目を飲み終えそうになる頃、ホテルの女将が登場した。バーテンダーは「マダム」と呼んでいた。
最初の夜、マダムはバルバドスのゴールドラムの旨いのがあるから、一緒に飲みませんかと言ってきた。
このゴールドラムが旅人の私を酔わせてしまった。港の夜景と涼風、そして美人、そこに旨いラムときたら旅情は極まる。一方的に惚れてしまい、一生グレナダで暮らそうかと思ったほどだ。(次ページへつづく)