『水の記憶』の解明に励む、米澤岳志氏。 |
「水のポテンシャルをどう引き出すか。プラス面を大いに活かし、マイナス面があったらどう補えばいいか。いまはわかっているようで、わからん。まあ、わかるようにする研究です」
彼はいつも平易な言葉で私に説明してくれる。
「水にも歴史があり、履歴がある。蒸溜しても水そのものの性質は生きつづける。だから水の記憶ってものがあり、その記憶を解明して、ウイスキーづくりに活かしていきたい。」
こう語る彼は、山崎の水はもちろん、いろんな蒸溜所の仕込み水、また日本酒をはじめとしたいろんな酒の仕込み水、いろんな名水と呼ばれる水などをさまざまな角度から分析し、とにかくずぶ濡れ状態である。
茶とウイスキーをもっと知りたい。
実は私はこんな仮説を立てことがある。イギリスは紅茶の国であり、ブリテン島北部のスコットランドはウイスキーの土地だ。イギリス人だってコーヒーを飲まない訳ではないが、ティの国となったのは水のせいではないか。茶とウイスキーは軟水が好ましいのではないか。
ヨーロッパ大陸は硬水だからコーヒー文化圏になったんだ。
そして日本を見よ。緑茶、つまりティの国であり、素晴らしいジャパニーズウイスキーを生んでいるではないか。それは日本の水も軟水だからだ。
でもこれには無理があった。ケンタッキーやテネシーなどアメリカンウイスキーの里は硬水である。硬水だってメロウなウイスキーを生んでいる。まったくシロウトの仮説だった。
しかしだ。こんな私の仮説を聞き、誤りを正し、そして茶やウイスキーと水とについてわかりやすく面白く語ってくれるのは米澤氏である。彼なら私の幼稚な考えをどう笑い、どうオチをつけてくれるのだろうかとの期待がある。
だから、いま最も会いたいウイスキー研究家は米澤氏である。研究で忙しいだろうが、時間をつくってもらえたら、ほんとうに嬉しい。
さて、米澤岳志氏のことをサントリー山崎蒸溜所のホームページでの私の連載『職人の肖像』第2回に書いた。米澤氏とはどういう人物でどんな思いを抱いて研究をつづけているのか。
この先の話はどうかそちらを読んでいただきたい。
『職人の肖像』第2回を是非どうぞ。