『SCOTCH CLUB ICHIYO(一葉)』。スコッチウイスキーとカクテルをこよなく愛する人たちが集まる店だ。
ある夜、オーナーバーテンダー、柳倉武氏が1本のボトルを手に取り「ブレンデッドなら、いまこれをすすめるよ」と言った。
そのボトルはダイヤモンド・カットが施された個性的な形状だった。ショット・グラスに注がれたウイスキーは、淡く輝いていた。
それまでブレンデッド・ウイスキーというとバランタイン、フェイマスグラウス、響、角瓶あたりを好んで飲んでいた。とくにフェイマスグラウスが最も頻度が高かったように思う。だからグラスを満たしたその一杯は、香味を確かめる前に素敵な女性に巡り会えたような、新鮮な、心躍るものがあった。
ひと口含んだ。まろやかな香味が花開くように口中に広がった。柔らかいコクがありながら口切れがいい。バランスのいいブレンデッドならではの芳香の余韻がほどよくつづく。
『アンティクァリー12年』。これがそのボトルとの出会いだった。ちょっと虜になったといっていい。
クラガンモアやベンリネスなどのモルトを贅沢に使っていることをその時、柳倉氏から知った。カクテル『ラスティネール』に、このウイスキーを使っているとも言った。
ブランド名は、19世紀の小説家、サー・ウォルター・スコットの同名の小説に由来するらしい。『アンティクァリー』とは“好古家”。旧き佳き物は色褪せないということか。1888年にデビューしたウイスキーではあったが、おそらく40年ほどは幻の酒となっていた。いま口にしているのは1996年にトマーチン社が復刻させたものだ。
スコットランドはエディンバラにカレドニアンホテルがある。ここのバーは文壇バーとして有名だが、ウイスキーをオーダーすると『アンティクァリー』が当然のように出てくるらしい。
一度このホテルのバーを訪ねてみようと思う。