キャラメルからショコラまで
『キャラメルのとろとろクリーム』 |
海藻から抽出されるアルギン酸ナトリウムは、食品に増粘剤・ゲル化剤として使われる。マグネシウムイオンやカルシウムイオンを加えるとゲル化する(ゼリー状に固まる)性質があることから、人工イクラや人工フカヒレなどの製造に利用されており、エル・ブジのシェフであるフェラン・アドリアがとり上げて世界中を席巻した手法だ。
最後のデザートは『ビターチョコレート“エベヌ”のガトー』。これもオレキスの定番デザートである。レストランのデザートとしてオリジナリティーの高いものを提供するのが、シェフのこだわりである。ヴェイス社のクーベルチュール(加工用チョコレート)の一種『エベヌ』(カカオ含有量72%)を使用した、濃厚でなめらかな味わいのチョコレートケーキである。エベヌは品質的に優れた希少なカカオ品種のクリオロをベースに、トリニタリオとフォラステロという他のメジャー品種もブレンドしている。皿の上のパーツそれぞれにカカオを感じさせる香りやざらりとした感触があり、酸味や甘味も充分でくっきりとした味わいは、これもかなりフランスに近い感性である。
「現代の料理」はこのように、古典料理と軽やかな料理のエッセンスを縦横無尽に活用するのである。最先端の技術応用、皿の上での異文化の融合、発想の大転換――最終的に問われるのは料理を提供する側が何をどこまで考えているかであり、それが客にどれだけ響くかではないだろうか。そのためには客の側にも、店の提案するコンセプトをとことん理解して楽しむような心がけが必要になる。そんな事を考えながら、この春からも何人かの美食家と共に、私は食べ続ける。