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iDeCo(イデコ)とは何なのか、よく理解できていません。

●相談者 井出 浩二(仮名)さん(35歳) 年収540万円 会社員
長生きリスクに備えてしっかり資産形成をしなければならないと考えるようになった。最近、新聞やネットなどで「自分年金」とともにiDeCo(イデコ)というキーワードをよく目にする。老後の資産形成の方法としていろいろメリットがあるようだが、具体的にどのようなものなのか。利用する際の注意点なども教えてほしい。

「人生100年時代」と言われていますが、平成28年簡易生命表によると、100歳まで生きられる確率は、男性約1.6%、女性6.9%とのことです。この数字を見て低いと感じるか、高いと感じるかは人それぞれでしょうが、女性の場合、14人に1人は100歳まで生きると考えると「人生100年時代」はもう身近な話題と言っても良いでしょう。
長寿化が進む中、心配なのは老後のお金です。老後の生活費を支える中心は公的年金ですが、不足分を補ったり、より豊かな老後を送るためには、自分自身で老後に備えた資産形成をすることが必要です。今回は、平成29年1月より加入者の適用が拡大され、注目されている「iDeCo(イデコ)」について解説します。

※本記事に記載している「iDeCo」「個人型確定拠出年金」「個人型DC」は、名称は異なりますがすべて同じものです。

iDeCo(イデコ)とは

「iDeCo(イデコ)」は、「個人型確定拠出年金」の愛称です。個人型確定拠出年金は、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金の制度です。この制度への加入は任意で、自分で申し込み、自分で掛金を拠出し、自らが運用方法を選び、掛金とその運用益との合計額をもとに、一時金や年金などの給付を受けることができます。国民年金や厚生年金などの公的年金と組み合わせることで、より豊かな老後生活を送るための資産形成をすることができる方法のひとつとして注目されています。

「ねんきん定期便」は、国民年金および厚生年金保険の加入者(被保険者)の誕生月に届きます(ただし、1日生まれの人は、誕生月の前月に届きます)。通常はハガキで送られてきますが、35歳・45歳・59歳の時は、封書で送られてきます。封書の「ねんきん定期便」には、年金加入記録の確認方法などを詳しく記載したパンフレットや、お知らせした年金加入記録にもれや誤りがあった場合に提出する「年金加入記録回答票」が同封されています。

iDeCoに加入できる人と、掛金の上限

平成29年1月からiDeCoの加入対象者が大幅に拡張されました。今までは自営業者などの国民年金1号被保険者と厚生年金加入者で、勤める会社に企業型確定拠出年金(DC)や確定給付型年金(DB)などの企業年金制度がない人に限られていました。改正後は、専業主婦、公務員を含め、基本的に20歳以上60歳未満のすべての人が利用できるようになりました(厚生年金保険に加入する15歳以上の会社員等も加入可能)。
掛金額は毎月5,000円以上1,000円単位で自由に決められますが、加入者区分によって、毎月の拠出できる掛金の限度額が異なるので注意が必要です。加入条件と掛金限度額について、以下の図表にまとめました。

井出さんの場合は会社員なので、厚生年金に加入しています(第2号被保険者)が、さらに会社の制度を伺ったところ、「退職金制度はあるものの、企業年金制度がない」ということなので、掛金の限度は月額2万3,000円になります。

iDeCoは、自分で運用するもの

自ら拠出した掛金は、iDeCoのサービスを提供する金融機関等(運営管理機関)が選定する運用商品の中から、自由に組み合わせて運用します。自分の運用方針(許容できるリスクの範囲や目標利回りなど)を定めたうえで、預金、保険商品、投資信託などの運用商品を選びます。

運営管理機関は、運用商品の説明は行いますが、特定の運用商品をお勧めすることはありません。自分で決めた運用方針に沿って運用商品を選択し、毎月の掛金でどの運用商品をどれだけ購入するかの配分(掛金の何パーセントをどの商品に振り分けるかの割合)を決めます。自分で決めた配分に基づいて、毎月、運用商品が購入されます。定期的に運用状況の確認を行い、必要に応じて配分や運用商品の変更を行うことができます。

iDeCoのメリット

まず、iDeCoの最大のメリットは、税制面で優遇されていることです。掛金の拠出時、資金の運用時、そして、一時金または年金の受取時の3段階で優遇が受けられます。

1.掛金は全額所得控除
iDeCoの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として全額所得控除されるため、所得税と住民税の節税効果があります。例えば井出さんの場合、所得税率は10.21%、住民税率は10%なので、毎月2万円(年額24万円)拠出した場合、年額4万8,500円の節税効果になります。仮に35歳から60歳までの25年間、同条件で拠出し続けた場合、総額で約121万円の節税効果になります。

2.運用益は非課税
金融商品の運用益に対して、通常は税金(源泉分離課税20.315%)がかかりますが、iDeCoの運用益は非課税です。毎月2万円を25年間(元本600万円)、年利3%で複利運用した場合、25年後には892万円になります。運用益292万円に対し、本来であれば59.3万円の税金がかかりますが、iDeCoの場合は課税されません。

3.受け取るときは、退職所得控除、公的年金等控除
60歳になると、5年以上20年以内の有期年金(終身年金を取り扱っている運営管理機関もあります)を選択して、老齢給付金として受け取ることができます。また、年金の全部または一部を一時金として受け取ることもできます。年金と一時金のいずれかを選択した場合でも、税制の優遇措置を受けられます。

(1)年金で受け取る場合は、公的年金控除が適用される
iDeCoの積立金を60歳以降、年金で受け取る場合、その年金は、税金を計算する上では雑所得に該当します。国民年金や厚生年金などの公的年金等と同様に扱われるので、これらの給付と合算して、そこから公的年金等控除という所得控除を受けることができ、税制面で優遇されています。

(2)一時金で受け取る場合は、退職金控除が適用される
一時金で受け取る場合は、退職金と同等に扱われ、退職所得控除を受けることができます。

退職金の税金の計算方法は、おおまかに言うと、
「退職金の額 - 退職所得控除額 ✕ 2分の1」 = 課税退職所得金額 を算出し、
これに所得税の税率を掛け、そこから控除額を差し引いた残りの金額が所得税額となります。

退職所得控除額は、勤続20年以下は1年あたり40万円、20年を超える期間は1年あたり70万円の控除が受けられます。なお、iDeCoの掛金拠出期間は、勤続年数にカウントされます。

例えば、20歳で就職し、60歳で定年退職した場合、勤続年数は40年です。勤続年数40年の退職所得控除額は、40万円 × 20年 + 70万円 × 20年 = 2,200万円となります。
退職金の見込み額を「1,200万円」として、iDeCoを利用して毎月2万円を35歳から25年間、3%で運用できたと仮定すると、これが892万円。このお金を60歳の時に一時金で受け取る場合、会社の退職金1,200万円と合わせても、退職所得控除2,200万円の範囲内となるので、税金はかからない計算になります。

iDeCo利用の際の注意点

●運用リスクは自己責任
iDeCoは、公的年金に上乗せして老後の資金を準備することができ、税制面でも優遇されている点で、優れた制度です。けれども、始める前にメリットだけではなく、デメリットについても十分に理解しておく必要があるでしょう。まず、運用リスクは加入者本人が負うという点です。将来もらえる年金額は、本人の運用成果に基づいて決まります。そのため、運用についてしっかり知識を得ることが大切です。

●60歳までは資金を引き出せない
iDeCoは老後の資金準備のための制度なので、原則として60歳まで資金を引き出すことはできません。この点は、銀行預金や証券会社などで投資信託を購入して老後の資金を準備するものとは異なります。税制面で有利だからといって、毎月の掛金によって現役時代の家計を苦しめてしまっては意味がありません。現在の家計状況(生活)と、将来の老後の生活のバランスを考えながらiDeCoを活用することが何よりも大切です。掛金を決めるための基本的な考え方は、お金Tips「投資を始めたいのですが、どのくらい投資に回したら良いのでしょうか?」もご参照ください。

お答えしたのは……
平野 泰嗣(ひらの やすし)

ファイナンシャルプランナー。CFP®認定者。パートナーとともに夫婦FPとして、「その人らしい幸せな人生をサポートする」をモットーに、夫婦で取り組む家計管理やライフプラン実現のためのコンサルティングを数多く手がける。All Aboutマネー「ふたりで学ぶマネー術」を連載中。

提供:特定非営利活動法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会
掲載期間:2017年7月3日~2018年3月31日【PR】