FP(ファイナンシャル・プランナー)とはじめる賢い生き方

 

退職金を一時金で貰うか、年金で貰うかを迷っています。

●相談者 小泉 健一(仮名)さん(60歳) 退職金2,500万円 会社員
35年間勤めた会社を3月に定年退職する予定です。会社からの説明によると、退職金を一時金で受け取った場合は2,500万円ですが、全額またはそのうち一部について、金額を指定して年金形式で受け取ることもできるようです。年金で受け取る場合は、5年・10年・15年から受取期間を選択することができますが、利息がつくので、一時金で貰うよりも年金の累計金額は多くなるとのことです。定年退職後は再雇用制度を利用して65歳まで働く予定ですが、収入は大幅に減ります。また、自宅の老朽化が進んでいるのでリフォームなどある程度まとまったお金が必要です。いろいろ考えると、退職金を一時金で貰うか年金で貰うか、迷ってしまいます。

定年退職を迎える方から「退職金を一時金で貰った方が良いのか、年金で貰った方が良いのか」という質問を多くいただきます。リタイア後の生活設計を考える際に、退職金をどのように貰うか判断に迷う方も多いのではないでしょうか。

自分の会社の退職金制度の仕組みを早めに確認しよう

退職金制度には、退職一時金制度(退職時に退職金を一括で受け取る)、企業年金制度(年金として受け取るか、一時金として受け取るか、あるいは併用するかを選択する)、確定拠出年金制度(自身で運用管理してきたものを一時金や年金で受け取る)、またはこれらを組み合わせて運用しているなど、会社によってさまざまです。自分の会社の退職金制度がどのようなものであるか、定年退職の間際ではなく、早めに知っておくと、じっくり考えて選択することができます。

小泉さんが勤める会社の退職金制度は「一時金/年金/一時金と年金の併用」から自由に選べる制度で、制度の案内と一緒に、退職金のモデル受取方法が示されていました。

退職金の全てを一時金で貰った場合は2,500万円ですが、全てを年金にして15年間受け取った場合の年金受取総額は2,898万円で、約400万円の差があります。

一時金で受け取るよりも年金で受け取った方が貰える金額が多くなるのは、退職一時金として受け取る金額を運用しながら取り崩すからです。小泉さんの会社の場合、予定運用利回り(予定利率)は2%でした。 (予定利率は退職金制度の案内に記載されている場合もあります。記載がなければ、担当部署に問合わせてみるとよいでしょう)

小泉さんは、ここ最近低金利が続いていることを考えると2%の運用利回りは魅力的だし、最終的に貰える金額も年金の方が多いので、年金形式で貰った方が有利かなと考えるようになりました。

一時金と年金では、かかる税金が違うことに注意

退職金を一時金で受け取る場合と年金で受け取る場合、かかる税金が異なるので、単純に額面で有利・不利が決まるものではありません。

一時金で貰う場合にかかる税金
退職金を一時金で受け取った場合、「退職所得」として税金が計算されます。退職金は永年の勤労に対する報償的給与として一時的に支払われるものであることなどから、退職所得控除を設けたり、他の所得と分離して課税されるなど、税負担が軽くなるよう配慮されています。

退職所得は、以下の計算式で求めます。

【退職所得】
(退職一時金等の収入金額 - 退職所得控除額*)× 1/2 = 退職所得

【退職所得控除額*】
・20年以下の場合: 40万円 × 勤続年数
・20年超の場合:  800万円 +(勤続年数 - 20年)× 70万円

※勤続年数は1年未満切り上げ。退職所得控除の下限は80万円

【所得税】
退職所得 × 所得税率 - 控除額 = 所得税額

※退職所得は、原則として他の所得と分離して、所得ごとの税率に基づいて所得税額を計算します。尚、復興特別所得税(所得税に対して2.1%)が別途課税されます。

【住民税】
退職所得(所得税と同様の計算方法)に対して、一律10%です。
退職手当にかかる所得税の源泉徴収と同時に、住民税にかかる特別徴収を勤務先で手続きしてもらえます。

ここまでを踏まえて、勤続年数35年の人が、退職金2,500万円をすべて一時金で受け取った場合の退職所得と税金を計算してみましょう。

退職所得:
{2,500万円-(800万円+(35年-20年)×70万円)}×1/2 = 325万円
所得税:325万円×10%-97,500円 = 227,500円(別途、復興所得税4,777円)
住民税: 325万円×10% = 325,000円

退職金の手取り額は

2,500万円-所得税-住民税
=2,500万円-22.75万円-0.4777万円-32.5万円

24,442,723円と計算できます。

退職金を一時金で受け取る場合のメリットは、退職所得控除の範囲内であれば税金はかからない、という点です。例えば、勤続35年の人の場合、800万円+(35年-20年)×70万円=1,850万円までは、所得税・住民税は非課税となります。仮に退職所得控除の範囲を超えた場合でも、退職所得は通常の所得の1/2として扱われるため、大変有利になっています。後述する「年金で貰う場合にかかる税金」と比較して、有利であれば、退職一時金で受け取るという選択肢もあるでしょう。

年金で貰う場合にかかる税金
国民年金や厚生年金などの公的年金に限らず、一般的に年金は、「雑所得」という所得の種類に分類されます。雑所得の金額は、収入金額から必要経費を差し引いて計算するのが原則ですが、国民年金や厚生年金、確定給付型年金、確定拠出年金の年金受取分など、公的年金等を受け取った場合は、収入金額から公的年金等控除額を差し引いて計算する特典があります。

公的年金等控除額は、受給者の年齢が65歳以上かどうかで異なります。公的年金等の収入が65歳未満の人の場合は70万円以下、65歳以上の人の場合は120万円以下であれば、公的年金等に係る雑所得は0円になります。なお、退職金を年金で受け取った場合、この公的年金等に該当するかは、ご自身の会社の担当部署に確認しましょう。

退職金を年金で受け取った場合の税金の計算は、かなり難しいです。雑所得は、給与所得や不動産所得、事業所得など他の所得と合算して税金を計算する仕組みになっています。小泉さんのように、定年後は再雇用制度を利用して働く場合、給与所得と合算して所得税・住民税を求める必要があります。また、65歳以降は、老齢基礎年金や厚生年金を含めて、公的年金等に係る雑所得を求めなければなりません。

実際に所得税や住民税を計算する場合は、個人の事情によって異なるさまざまな控除を考慮する必要があります。正確に求めたいのであれば、税理士などの専門家の力を借りる必要があるでしょう。

退職金を年金で受け取ると国民健康保険税・介護保険料が高くなる?

一般的な国民健康保険税は、所得割(所得に応じて課税)、均等割(加入する世帯の人数に対して課税)、平等割(世帯ごとに課税)によって構成されています。所得割を計算するときの所得には、不動産所得・事業所得・給与所得・雑所得・一時所得などが含まれます。つまり、退職金を年金で貰う場合は、雑所得に該当するため、雑所得が増えた分だけ国民健康保険税も高くなるので注意が必要です。

また、一般的に介護保険料も所得区分に応じて決まります。所得税・住民税だけではなく、国民健康保険税・介護保険料などの社会保険料も考慮に入れて、一時金か年金にするのかを選択しなければなりません。なお、退職金を一時金で貰う場合の退職所得は、所得割には影響しません。

退職金の受け取り判断は、老後の資金計画と同時に考える

退職金を一時金で貰うか、年金で貰うかを選択する場合、税金や社会保険料などを考慮した金銭的な有利・不利も気になるでしょうが、実はそれ以上に大切なことは「老後のライフプランと資金計画(マネープラン)を踏まえて選択すること」です。

小泉さんの定年後の資金計画について伺ってみると、自動車の買い換えで200万円、マンションのリフォームで500万円、再雇用期間が終わる65歳に海外旅行100万円など、むこう5年間のうちに800万円ほどの大きな支出を予定していました。これ以外にも、子ども2人がそろそろ結婚適齢期なので、結婚資金援助などの支出も予想されています。あらためて考えると、退職金の中からある程度まとまった金額を受け取っておかないと、貯蓄が大きく減ってしまう恐れがあることがわかりました。

そこで小泉さんは、会社から示された退職金のモデル受取方法から、「退職一時金1,650万円、年金850万円(受取期間15年間)」を選択することにしました。退職一時金1,650万円ならば、勤続35年の退職所得控除1,850万円に収まるので所得税・住民税がかからず、また、年金で受け取る部分も、公的年金を受給するまでの間は公的年金等の雑所得が0円なので課税されません(他の雑所得はないものとする)。そして何よりも、定年後に予定されている大型出費に十分備えることができそうです。

定年後のライフプランやマネープランを作成することで、将来の収支や貯蓄残高などを予想し、把握することができます。退職金をどのような形で受け取ればいいのか、そして大切なお金をこれからどう使っていくか、どう貯めていくか、あるいはどう運用するか。その目安を知るためにも、ファイナンシャル・プランナーなどに相談するなどして、プランづくりをはじめてみてはいかがでしょうか。

お答えしたのは……
平野 泰嗣(ひらの やすし)

ファイナンシャルプランナー。CFP®認定者。パートナーとともに夫婦FPとして、「その人らしい幸せな人生をサポートする」をモットーに、夫婦で取り組む家計管理やライフプラン実現のためのコンサルティングを数多く手がける。All Aboutマネー「ふたりで学ぶマネー術」を連載中。

提供:特定非営利活動法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会
掲載期間:2017年7月3日~2018年3月31日【PR】