家族 妻・恵子さん(39歳)、子ども2人(10歳、8歳)
昨年マイホームを購入し、貯金から頭金を多く拠出したため、預貯金が少なくなってしまった。二人の子どもを大学に行かせたいので、教育資金の準備をしなければいけないし、自分たちの老後のことを考えるとなんだが不安。低金利が続いているので、銀行の定期預金ではほとんど増えない状況で、投資をして教育資金や老後資金の準備をした方が良いのかどうかわからない。いまある預貯金350万円は、いざという時のために減らしたくない。
森田家の家計状況
・年収:新一さん 500万円、恵子さん 50万円
・毎月の手取り収入 36万円
・毎月の支出 33万円(食費7万円、住居費(ローン返済等)8万円、水道光熱費2万円、日用雑貨・被服2万円、通信費2万円、教育費5万円、小遣い(夫)4万円、その他3万円)
・毎月の収支(貯金) 3万円、ボーナス時の貯金 30万円
・預貯金 350万円
将来への不安の高まりからか、低金利が続く状況では預貯金でお金は増やせないため、投資に関心を持つ人が少しずつ増えてきました。これから投資を始めたいと考えている人からいただく質問として多いのは
「どの位、投資に回しても大丈夫なのでしょうか?」
というものです。
投資にはリスクがつきものなので、「投資に回しすぎて、いざお金が必要な時に減ってしまっては困る」というのが正直なところなのでしょう。
今回は、「家計の中からどのくらい投資に回して良いか」について、ひとつの考え方を紹介します。
これから投資を始める場合、いまある預貯金の中から投資をする方法と、積立投資のように決まった金額をこれから少しずつ投資する方法が考えられます。
前者の場合は「いまある貯金からいくら投資に回して大丈夫なのか?」、後者の場合は「毎月いくら投資に回せば大丈夫なのか?」という疑問が湧くことでしょう。
残念ながら、「いまある預貯金の何割」とか、「毎月の家計の黒字額の何割」を投資に回すと良い、といった明確な答えはありません。なぜなら、その人のいまある貯金額や年齢、家族構成、そして、その人がそもそもどのようなライフプランを持っているかによって、投資に回せるお金も変わってくるからです。
森田さんの家計状況を見ると、昨年マイホーム購入で頭金を支払ったため、預貯金は350万円に減っています。手元にあると安心な金額は人それぞれ感じ方が違うと思いますが、森田さんとしては、350万円はいざという時のために確保しておきたいようです。この場合、350万円から投資に回せるお金は「ゼロ」ということになります。
では、もし仮に、森田さんの預貯金残が500万円であったとして、最低限とっておきたい金額が350万円で変わらないとした場合、150万円は投資に回しても良いということになるのでしょうか? 俗に言う「余裕資金」に該当すると思いますが、本当に余裕資金であるかどうかは、将来のライフプランを描いてみないとわかりません。将来教育費が膨らみ、家計の赤字が続き、貯蓄を取り崩すことを考えると、余裕資金とは言えないかもしれません。
では、黒字の家計から積立投資をする場合はどのように考えたらよいでしょうか。
現在の家計状態を見ると、毎月3万円の貯蓄ができていて、さらにボーナスで30万円、年間合計66万円の黒字になっています。森田さんの不安材料は教育資金と老後資金の準備とのことですが、仮に2人の大学の費用を大まかに各々400万円と見積もって、合計800万円を9年間で準備するとします。1年間の家計の黒字が66万円なので、1ヶ月あたり5.5万円を9年間で毎月積立投資をします。利回り3%と仮定し、10年間積み立てた場合は約681万円となり、800万円に達しません。利回りをもっと上げれば良いかもしれませんが、そもそも、黒字分をすべて投資に回して良いのか、さらに、本来ならしっかり準備しなければならない教育資金のすべてを、積立投資で準備して良いのか、という問題もあります。また、教育資金と同時並行で老後資金の準備もしなければなりません。
その一方で、将来森田さんの収入が上がり、家計の黒字が増え、投資に回すことのできるお金が増えていく可能性も考慮しなければなりません。結局のところ、今の黒字分からいくら積立投資に回したら良いのか、さらに、それが教育資金準備のための積立なのか、老後資金のための積立なのか、がわかりにくい状況になってしまいます。
そこで、いまある預貯金から投資する、家計の黒字分から積立投資をするといった「家計からどのタイミングでいくら投資に回したら良いか」という投資プランの目安をつけるために、ライフプランとマネープランを作ることをお勧めします。
下の図は、森田さんのライフプランに基づいて、今後25年間の家計の収入と支出をグラフ化したものです。折れ線グラフが収入、棒グラフが支出を表わしています(ここでは、あくまでも、ライフプランのイメージを持って頂くことを目的に掲載しているので、前提条件の説明は省略します)。
家計は黒字が続きますが、2人の子どもが大学生になる頃に家計は厳しくなります。60歳に収入が増えているのは、退職金1,500万円(手取り)が入ると仮定しているからです。
さらに、今後25年間の家計の収支に合わせて、金融資産残高の推移をグラフ化しました。森田さんが、どのくらいのペースで投資をしたら良いか判断できるように2つにパターンを作りました。
1つ目のパターンは、毎月3万円の黒字のうち2万円を投資するとして、毎年24万円を積立投資に回し、残りを預貯金に入れ、さらに、61歳の時に、退職金1,500万円のうち500万円を投資に回す場合です(貯蓄の利回り0%、投資の利回り3%と仮定)。
棒グラフの赤い部分が投資部分、青い部分が貯蓄部分。ピンクの折れ線グラフは、投資を行わず、すべて貯蓄に回したと仮定した場合の金融資産残高の推移です。
2つ目のパターンは、同じ家計の収支の条件で、いまある預貯金350万円の中から150万円、さらに、毎年48万円の積立投資を行い、退職時に500万円の投資を行う場合です。
投資の割合を増やすと、シミュレーション上の金融資産残高は1つ目のパターンと比較して増えていますが、赤の棒グラフで表される投資部分の割合が多いので、不確定要素が大きい金融資産の構成になっています。また、53歳時点の貯蓄部分の残高を見ると200万円を下回っているので、投資の部分があるとはいえ、これからの暮らしを考えると、金額としては少し心もとない気がします。
このように、森田さんのライフプランとマネープランに、いつのタイミングでいくら投資をするかという、「投資プラン」を実際に当てはめて見ると、将来の貯蓄部分、投資部分の予測が可能になり、どのくらいのペースで投資をしたら良いのか判断できるようになります。森田さんは、2つのパターンを比較し、「貯蓄部分が200万円を下回るよりも、500万円ぐらいは安定してあった方が安心なので」、毎年24万円ぐらいだったら投資にチャレンジしようという結論に至りました。
家計から、いくら、どのタイミングで投資に回したら良いかを考える場合、教育資金や老後資金などの目的別に投資をするということではなく、ライフプランとマネープランに合わせて貯蓄と投資に回す割合を考えていき、「人生全体で資産形成する」という視点がこれからの時代では大切だと思います。
森田さんのケースでは、退職金1,500万円のうち500万円を投資に回すと仮定しましたが、投資経験もなく、いきなり大金を投資に回すのは危険です。早い段階から、家計の黒字分から積立投資を行ってじゅうぶんな投資経験を積んだ方が、失敗は少なくなるでしょう。
いまから投資を始めようかと検討されている方は、「ライフプランに合わせた資産形成」という視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。
お答えしたのは……
平野 泰嗣(ひらの やすし)
ファイナンシャルプランナー。CFP®認定者。パートナーとともに夫婦FPとして、「その人らしい幸せな人生をサポートする」をモットーに、夫婦で取り組む家計管理やライフプラン実現のためのコンサルティングを数多く手がける。All Aboutマネー「ふたりで学ぶマネー術」を連載中。
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