家族:妻(42歳、専業主婦)、子ども2人(12歳、10歳)
子どもが大きくなり、現在住んでいる賃貸マンションが手狭になったため、上の子どもが中学校に入るタイミングでマイホームの購入を検討しています。気に入った物件が見つかり購入する段階になりましたが、住宅ローンをどのように組んだら良いのか悩んでいます。これから子どもの教育資金が増えるので、できるだけ返済金額は少なく抑えたいと考えています。35年の住宅ローンを組んだ場合、完済する年齢が79歳になります。不動産会社には、「繰上げ返済や退職金で返済すれば大丈夫ですよ」と言われていますが心配です。
勤めている会社は、60歳で定年となり、その後、再雇用で65歳まで働くことができます。退職金は60歳の時に2,500万円支払われる予定です。
●資金計画
物件価格4,500万円(一戸建て、諸経費込み)
自己資金500万円、住宅ローン4,000万円、金利1.08%(固定)、購入後固定資産税12万円/年
●家計状況
年収750万円(手取り年収567万円)、生活費300万円/年、教育費65万円/年、現在の家賃144万円/年、旅行などの一時的支出20万円/年、年間貯蓄額38万円、現在の貯蓄額1,000万円
マイホーム購入に際して住宅ローンを組む場合、返済期間をどのくらいにしたらよいのかは悩ましい問題です。返済期間を短くすれば毎月の返済額は多くなり、日々の家計を圧迫します。返済期間を長くすると、山本さんのように返済が定年を超えても続くようなこともあり、年金生活になった場合でも返済できるかどうか、不安が残ります。今回は、住宅ローンの返済期間の考え方について解説します。
山本さんが35年の住宅ローンを組んだ場合、完済予定年齢が79歳になり、繰上げ返済をせずそのまま返済を続けた場合、65歳以降、収入が年金のみになっても返済が続くことになります。
では、完済年齢は、働ける期間に合わせるのが一般的なのでしょうか?
「2016年度フラット35利用者調査」によると、フラット35を利用して住宅ローンを組んだ人全体の平均年齢は39.8歳で、平均償還期間は32.4年とのこと。つまり、完済予定年齢の平均は72.2歳となり、一般的な定年である65歳までの期間よりも長く借りているのが実情です。
山本さんも、65歳以降働けなくなったとしても住宅ローンを返済し続けていくのは不安でしょう。そこで、働くことができる65歳までの「21年の住宅ローン」を組んだ場合と、不動産会社から提案された「35年の住宅ローン」を比較してみましょう。
(借入金額4,000万円、固定金利1.08%、元利均等返済 ※保証料・団体信用生命保険料は加味せず)
21年で住宅ローンを組んだ場合の毎月の返済額は17.7万円(年間213万円)であるのに対し、35年でローンを組んだ場合の毎月の返済額は11.4万円(年間137万円)です。これに固定資産税12万円を加味すると、住居関連費用は、21年ローンの場合は225万円、35年ローンの場合は149万円になります。現在の年間家賃144万円と比較すると、21年ローンは81万円、35年ローンは5万円の増加になります。
現在の年間貯蓄額が38万円なので、35年ローンを組んだ場合はなんとか黒字を維持できますが、21年でローンを組むと43万円の赤字になってしまいます。二人のお子様が中学~高校~大学と進むにつれて教育資金も増えるので、赤字はさらに増えることが予測されます。マイホーム購入後の貯蓄残高は500万円(現在の貯蓄残高から自己資金500万円を支出)なので、近い将来、家計が破たんする可能性があります。
では、35年のローンを組んだ場合はどうでしょうか? 確かに、直近の家計が黒字で維持されるので、近い将来の家計破たんの可能性は低くなります。しかし、返済元金に利息を加えた総支払額について21年ローンと35年ローンを比較すると、35年ローンの方が21年ローンよりも約333万円多くなります。つまり、長い目で見ると35年ローンの方が家計への負担は大きいということができます。また、65歳以降もローンの返済が続くので、老後に家計が破たんする可能性は21年ローンを組む場合よりも高くなる、ということができます。
「住宅ローンは、長めに借りて、繰上げ返済をすれば良い」と考える人も多いですが、手もとにある貯金を見ながら繰上げ返済をしていくような無計画な返済方法は、あまりお勧めできません。直近の返済負担を抑えるために35年ローンを組む場合でも、働くことのできる期間で完済するような繰上げ返済計画を立てます。
山本さんのケースでは、働くことのできる期間は65歳までなので、65歳に完済することを目標に設定します。子どもが大学を卒業するまでの期間は、生活費や教育費が今よりも増加することが見込まれるので、繰上げ返済する時期は今から13年後、山本さんが57歳の時。57歳から59歳までの3年間は教育資金の負担がなくなることを考慮し、毎年100万円程度の繰上げ返済。60歳時に退職金2,500万円が入るので、そのうち1,500万円を繰上げ返済。以降は、再雇用により収入が減るので、約定通りの返済をするとします。
ここでは詳細な計算は省略しますが、これでいくと返済開始後20年3ヶ月で完済することができ、65歳になる前にローンの返済は終わります。また、総支払額も4,561万円となり、35年ローンをそのまま返し続けるよりも244万円、支出を抑えることができます。
立てた返済計画よりも前倒しで繰上げ返済を行えば、総支払額をより少なくすることができますが、教育資金等の将来に必要な資金や、万が一のために手元に残しておきたい資金を考慮しつつ、繰上げ返済をする必要があります。そのためにはライフプランに合わせて住宅ローンの返済計画を立てると良いでしょう。ライフプランがあれば、繰上げ返済の時期や返済額もより具体化することが可能になります。
お答えしたのは……
平野 泰嗣(ひらの やすし)
ファイナンシャルプランナー。CFP®認定者。パートナーとともに夫婦FPとして、「その人らしい幸せな人生をサポートする」をモットーに、夫婦で取り組む家計管理やライフプラン実現のためのコンサルティングを数多く手がける。All Aboutマネー「ふたりで学ぶマネー術」を連載中。
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