防犯/防犯小説

携帯電話紛失!拾った相手が悪かった(上)(2ページ目)

友人の中川の携帯を拾ったという男から、最後の通話相手の伊藤に電話がかかってきた。交番へ届けることはせず直接取りに来るようにと言われ、不安を覚えながらも会う場所を約束した。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

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(やはりそういうことか)と、思わず舌打ちをしそうになった。どうしたらいいのだろうか?

「なるほど。お礼は言うべきですよね」

お礼をする、ではなく、お礼を言う、と気をつけて答えた。

「でしょ? だから、この電話の持ち主が取りに来るようになんとか伝えてくださいよ」

伊藤は頭の中で急いで考えた。後輩の中川は気のいいやつだが、気は弱い。体力もなければ腕力もない。元ヤンキーといっても、喧嘩も強くない。伊藤は数種類の武道の経験があり、格闘系だった。不良時代、見事な立ち回りをする伊藤のそばで、中川は物陰から見ているようなタイプだった。そんな中川が、携帯電話を拾ったからお礼をしろ、というような人物に呼び出されて一人で携帯電話を取りに行けるはずがない。

だが、携帯電話には個人情報がてんこ盛りだ。家族・友人・知人たちの電話番号にメールアドレス。電話とメールの発着信履歴などがある。たとえ、電話会社に電話をして、使用停止にしてもらったとしても、それらの記録は残ったままになる。停止して電話は使えなくなっても、記録のある人たちに何かヘンなことや、いやがらせでもしないだろうか? こいつらなら何かやるかもしれない。どうしたらいいだろう。

「そうですか。ただアイツは、その携帯の持ち主は今からは取りに行けないと思うんですよ。ちょっと遠方に行くって言っていたんで。それに携帯を持っていないわけだから、私もちょっと連絡は取れないですね。だからいつになるか分からないというか」

「ああ、いつでもかまわないよ、こっちは。まあ、誰かこの携帯の持ち主のお友だちの親切な人でも、取りに来るのが一番いいと思うけどね。ほかの人にかけてみるかな。女性が取りに来てくれるならそれもいいな。これ、アドレス帳も見られるようになってるしね」

やはり、どうもろくでもないことを考えているようだ。

「……。たしかに携帯がないと困ると思います。わかりました。じゃ、オレが行きます。どこに行けばいいですか?」

「あ、そう? まあ、あんたでもこっちはいいよ。そうだな。じゃ、○○駅前でどうですかね。この携帯を拾った近くだし」

「○○駅前ですね? じゃあ、30分くらいで着くと思います。どのへんで待っていていただけますか?」

「30分も待つんだから、北口のその辺の店に入って待ってるよ。着いたらこの携帯に電話してみてよ」

「わかりました。それじゃ」

電話を切って、しばらく考えた。衛星都市の○○駅の北口といえば、南口とは違って飲み屋なども多い繁華街だ。いい雰囲気ではない。それにすでに夜なので、喫茶店というわけにもいかないかもしれない。

(金を要求するんだろうな。それまでに電話も使うだろう。Q2だとかアダルトサイトだとか、ヘンなことに使わなきゃいいが)

いやな予感がしながら、職場を出た。友だちを呼ぼうかと思ったが、複数で行くのもかえって相手を刺激するかもしれない。(とにかく一人で行ってみよう)。伊藤は、知らず知らずのうちに両手の指をポキポキと鳴らしていた。


続きは「携帯電話紛失! 拾った相手が悪かった(中)で!



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