※この記事は、実際に起きた事件をヒントにした創作です。【全3回】

携帯電話紛失!拾った相手が悪かった(上)
携帯電話紛失!拾った相手が悪かった(中)を先にご覧ください。

<前回までのあらすじ>
友人の携帯電話を拾ったという男たちに呼び出されて出向いた伊藤。店に入って話し合いをしていると金を要求された。断るとグラスの中の水割りをぶっかけられた。

反 撃

反 撃
反 撃
ゆっくりと顔をぬぐった伊藤は、おしぼりを軽くたたんでテーブルに置いて言った。

「あんたたちさー」

「?」

「忘れるなよ。そっちが先に手を出したんだぜ」

「何っ?」

男たちがアッと思ったときには、伊藤はガラスのテーブルのへりをつかんで思いっきり、ひっくり返していた。いわゆる「巨人の星」星飛雄馬の父・星一徹の「ちゃぶ台返し」だ。酒のボトルやグラス、灰皿、アイスペールなどが派手な音を立てて床に飛び散った。「キャー」と何人かの女の叫び声もした。テーブルは割れはしなかったが、ヒビは確実に入ったはずだ。

水割りのグラスをぶちまけてきた青い服の男が一番早く体勢を持ち直した。「このヤロウ」と顔を真っ赤にして、伊藤に殴りかかってきた。伊藤はボクシングで培った感性で苦もなく上体を避けると、バランスを失った男の背中の首の付け根に近いあたりに手刀を見舞った。男が倒れこむ寸前に足で蹴りあげた。当たり所がよくなかったのかもしれない。「ぎゃっ」と声にならない声を上げて倒れて、身をよじって苦悶している。

次に黄色い服の男がテーブルから回り込んでやってきた。「テメェ」やはり体をかわしながら、出された腕の手首をつかんで引き落とした。勢いのついた体が落ちる前に膝で腹部を蹴り上げた。「ぐぇっ」一瞬、体がくの字にはねあがったと思うと、ドウッと床に倒れた。残るリーダーの男は、目に戸惑いの色を見せながら、いきなりスツールをつかみ上げ、防御するようにかざした。

伊藤が「おおうりゃあああーーー」と腹の底から大声を出しながら突進すると、リーダーはうろたえながらスツールを投げようと持ち上げるようにした。体の前面ががら空きになった。男の目前でいきなりしゃがみ込んだと思うと、スクワットで鍛えた屈伸力でばねのように立ち上がりながら、同時に伊藤は男のあごを下から掌底で突き上げた。意表を突かれた男の手からスツールはあっさりと落ちて床に転がった。

男は踏みとどまることができずに数歩後退して勢いがついたまま壁にぶつかり、頭がゴンっと鈍い音を出した。そのままずるずると力のない足がもつれるようにして体がすべり落ちて、床に横たわった。むち打ちプラス脳震盪を起こしているのかもしれない。ほかの二人も床に這いつくばっているままだ。立ち上がって逃げる気力もないらしい。口ほどにもなく喧嘩慣れしていない連中のようだ。

汗をかくほどのこともなかった。伊藤は肩を何度か軽く上下させて首をぐるりと回した。衣服を整えて、髪を手ぐしでざっと撫で付けると、

「すみませーん。警察、呼んでもらえますか。110番してくれますかね」

と、店の者に声をかけた。やけに自分の声がはっきり聞こえるなと思ったら、音楽が止んでいた。いつから音楽が聞こえなかったのかわからなかった。店内も照明が最大限に明るくなっている。店の男が、おずおずと言った。

「あの、もう呼びました」

「あーそうですか。すみません」

「いえ、あ、来たようですね」

「ええ? マジ? 早過ぎるんじゃないの」

パトカーのサイレンが思いのほか近くで聞こえて止まった。いつの間に通報したのだろうか。まあ、警察署も近いし繁華街なのでパトカーもすぐに来たのかもしれなかった。店の女の子たちは奥のほうで固まってこちらを見ていた。伊藤は床を探して、中川の携帯電話を見つけ出した。(まったくなぁ。コイツのおかげでえらい目に遭ったもんだ)。床に寝転がっている3人の男たちを見て、(まあ、コイツらもそう思うだろうな)と、ちょっと楽しい気分になった。

→警察署で p.2
→→携帯電話はなくすものじゃない p.3