警察署で

警察官、到着
警察官、到着
店の扉が勢いよく開き、警察官たちが入ってきた。店の男がいち早く警察官に歩み寄った。

「電話をしたのは私なんですが」

「ただの喧嘩?」

「いや、なんか色々と複雑な感じらしくて」

と、伊藤をちらりと見た。伊藤は自分から進み出た。

「あのですね、私の友達の携帯電話を拾ったからって呼び出されたんですよ。で、10万円出せとか、ここの飲み代を払えとか言って、いきなり水割りをぶっかけられたんです。暴行ですよね。で、ちょーっと許せなかったんで、私がテーブルをひっくり返しました。そしたら、コイツらが次々と殴りかかってきたんですよ」

警察官は伊藤の言い分を黙って聞いていた。そして店の男の視線をとらえると、伊藤を親指でクイっと示しながら、「ん?」と、目でたずねた。この男の言っていることは本当か? とでも言いたいようだった。店の男は、勢いよくうなずいた。

「あの、たしかにそうです。話の中身は知りませんけど、喧嘩の様子は今、その人が言ったとおりです。その、そこで寝ているっていうか、倒れている人たちが先に手を出していました。その人たちは今日初めて来た客です」

警察官たちは現場にいたすべての人たちから事情を聞いて、ようやく立ち上がったがすっかり元気をなくした男たちを連行していった。伊藤も一緒に警察署に行くことになった。署に行くと、書類の作成などで少々時間がかかった。終えて帰宅しようとすると、十代の頃から世話になっている顔馴染みの刑事とバッタリ会った。

「よう。実、また喧嘩だって。お前、足を洗ったんじゃなかったか」

「やめてくださいよ~。オレ、今はカタギですよ。今日は友だちの携帯電話を取り返すためにやったんですから。正当防衛ですよ」

「まあ、相手が悪かったよな。でも、店のテーブルは弁償しろよ」

「ヤバイなぁ。カミサンに怒られちゃうよ。来月、子どもが生まれるんですよ」

「おお、そうか。そいつはよかったな。おめでとう。それにしちゃ、お前、間違った方向に張り切りすぎだぞ」

「へへ。そうっすね。どうも、以後気をつけます」

「頼むよ」

その後、3人の男たちはほかでも同様の手口で金を奪っていたことが判明した。被害届が出されていたのだ。携帯電話を盗んだのか、本当に拾ったのかは、携帯電話の持ち主に記憶がないため分からない。中川の携帯電話はアダルトサイトや出会い系に接続されており、短時間ながら高額な請求がきた。もちろん、男たちに請求すべき筋合いのものだ。それにしても、携帯電話をなくすことは、情報端末としての重要なツールだけに、大変なことになる。便利であることは、ときに「諸刃の剣」となる。

その後、伊藤は後輩の中川と会った。

→携帯電話はなくすものじゃない p.3