※この記事は、実際に起きた事件をヒントにした創作です。【全3回】

友だちの携帯電話

友だちの携帯電話
友だちの携帯電話
ある日の夜9時半過ぎに、自営業の伊藤実(28歳)の携帯に、後輩の中川から電話がかかってきた。兄貴のように慕ってくれ、伊藤も弟のようにかわいがっている。仕事を終えてちょうど帰宅しようとしていたところだった。ついさきほども電話で話したばかりだったので、何か言い忘れたことでもあるのかと思い、

「よう。どした?」

と、気楽に話しかけた。が、帰ってきた声は中川の声ではなかった。

「あ、あのー、この携帯電話なんすけど、そちらのお友だちのものですよね。そちらは伊藤さんですよね?」

「はあ? 誰?」

一瞬、意味が分からず、間の抜けた聞き方をしてしまった。

「いや、この電話をね、拾ったんですよ。ついさきほど。で、持ち主に連絡はできないじゃないですか。だから、発信履歴で最後にかけた方にかけてみたんです」

「あー、そうなんですか。それはどうもすみません。あいつもどうしちゃったのかな」

ありがちなことだろうと思ってつぶやくように言いながら、(だからと言って、そうやってかけるかなぁ)と何となく腑に落ちなかった。交番などに届け出れば済むことではないだろうか?

「どうも、それじゃ、申し訳ないんですが、近くに交番とかあったら、届けていただけますか。取りに行くように後で自宅にでも連絡しておきますんで」

「伊藤さん、あのねー、もしもし? それだったら、何もこうやって電話しないでしょ?」

「は?」

いったいどういう意味なのか、いやな予感が胸をよぎった。電話の向こうの話し声、話し方がくずれたイメージがするのだ。

「あのさー、警察に届けたらそれっきりで、拾った俺らには何もないわけでしょ。こちらの手間はどうしてくれんのよ」

「手間?」

聞き返しながら、「俺ら」と言った点に気づいていた。複数だということだ。

「こうやってさ、わざわざ電話をかけてね、拾いましたよ、って言ってるわけ。そしたら、常識ってもんがあるんじゃないの?」

「常識というと」

「やっぱり、直接取りに来てさ、お礼をするべきじゃないの?」


→個人情報満載 p.2