※この記事は、実際に起きた事件をヒントにした創作です。【全3回】

携帯電話紛失!拾った相手が悪かった(上)を先にご覧ください。

<前回までのあらすじ>
友人の中川の携帯を拾ったという男から、最後の通話相手の伊藤は、夜の繁華街の駅前に呼び出された。携帯電話を取り戻すため一人で応じることにしたが…

拾った連中と会う

女性のいる店で
女性のいる店で
夜10時過ぎに○○駅の北口に到着した伊藤は、少し離れた場所から周辺をさりげなく見回した。どこか店に入って待っていると電話をかけてきた相手は言っていた。だが、コーヒーショップはすでに閉店している。パチンコ店のほかに店といえば、居酒屋や飲み屋に風俗の店などばかりだ。客引きが目立ち、サラリーマンや学生風の男たちが行き来している。アルコールの入った男たちばかりの街は、すでに昼間の正気を失っているようだ。

伊藤は元々ちょっとばかり、いやかなり、ヤンチャな男だった。今はカタギとして、手に職を持っている。真っ当な生き方をしているのだ。中学の同級生で、今は小学校教師をやっている妻がいる。妊娠中で翌月には子どもが生まれる予定だ。もちろん、伊藤のヤンチャな過去も知っている。が、結婚してからは、一切ヤンチャはやっていない。いい年をした大人だという自覚があるのだ。だからこそ、こんなやり方は納得がいかなかった。

(ちぇっ、喫茶店ってわけじゃねーだろうな。どうすんだよ、いったい)

と一人で舌打ちをして、携帯電話を取り出した。中川の携帯電話にかける。

「あ、もしもし」

携帯電話の向こうからは女性の嬌声や音楽が飛び込んできた。そして怒鳴るような大きな声が聞こえた。

「おーう、待ってました! 今、どこです?」

「駅前に来ましたけど」

「そうすか。そしたら左側に1階がパチンコ屋のビルがあるでしょ。分かります?」

「ああ、分かります」

「そのビルの2階にいるんだけどさ。看板が出てるよ。『キャンディ』っての。見えます?」

「あ、見えます」

「そん中で待ってるから。じゃ、頼んます」

一方的に電話が切れた。『キャンディ』の派手な看板の下に行くと、そこが女性のいる店だと分かった。すでに酒を飲んでいるのだろう。ヤツらは何人いるのだろうか。黙って携帯電話を返してくれて、話がスムーズにまとまればいいのだが…。首を左右にカキカキっと音を立てて振ってから、気合を入れて階段を上がっていった。革張りのドアを開けると、音楽が耳を突いた。店内を見渡すと、若い男が3人、数人の女性に囲まれて座っていた。

「いらっしゃいませ~」

男たちが全員、自分のほうを見た。真ん中に座った男が、伊藤に手招きをした。どう見ても、みなカタギではない風体だ。

「こっち、こっち。伊藤さんでしょ? どうぞ、座って。彼女たち、ちょっとどいてくれる」

女性が2~3人席を立った。一番偉そうにしているリーダーらしい男が、自分の向かいの座席を指差して、伊藤に座るように促した。

「伊藤さん。悪いね。よかったよ。来てくれて」

「どうも。お手数をおかけしました。オレの友だちの携帯を拾ってくれたそうで、お礼を言います。ありがとうございます」


→礼を言っても p.2→→要求されたもの p.3