公家たちがお月見に使った野菜
室町時代から江戸時代にかけての公家の間では、お月見の際に茄子に箸で穴を開け、その穴越しに月を眺めて願を掛けるという習わしがありました。その様子は、文献にも記されています。
室町時代後期から江戸時代初期にかけての宮中日記『御湯殿上日記』には、後陽成天皇が茄子に穴を開けて月を眺め、願を掛ける様子が記されています。
江戸時代初期の宮廷行事をまとめた『後水尾院当時年中行事』にも、「まず、いも、次に茄子を供ず。なすびをとらせましまして、萩のはしにて穴をあけ(中略)茄子の穴より御覧じて御願あり」と記されています。
なぜ、茄子の穴越しに月を眺めて願を掛けたりしたのでしょう?

茄子(画像出典:Shutterstock.com)
また、月は信仰や祈りの対象でもあり、茄子は「成す(なす)」に通じることから、「事を成す=願いが叶う」という意味が込められていたと考えられます。
5円玉の穴から月を眺めて願を掛ける
腕をまっすぐ伸ばして5円玉の穴を目の前に持ってくると、穴の中に月が収まるのをご存じでしょうか。これは、視角(見かけの大きさ)という概念からきています。月の直径は約3474km、そして地球からの距離は約38万km。これを視覚の計算式で求めると、月の視角は約0.5度、月は私たちの目には約0.5度の広がりで見えていることになります。
5円玉の穴の直径は約5mm、腕を伸ばして約50cm離して見ると、その穴の視角も約0.5度。つまり、月の視覚と5円玉の穴の視覚はどちらも約0.5度なので、腕をまっすぐ伸ばした5円玉の穴の中に月が収まるわけです。
小さな穴から広大な月が見えるという科学的な面白さから始まった遊びですが、5円玉が「ご縁」に通じることから、ご縁や縁結びの願掛けとしても親しまれています。
十五夜に穴から月を見てみよう
昔の宮廷で行われていた茄子の穴のお月見と、現代の5円玉の穴のお月見に、直接的なつながりはありません。しかし、何かを通して月を見ることで願掛けをするという発想は、いにしえの文化に通じます。
十五夜には、箸で穴を開けた茄子と5円玉でお月見を楽しんでみてはいかがでしょう。美しい月を眺めながら願掛けもお忘れなく。
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