オーク材がシェリー樽となるまで約6年の年月がかかる
ザ・マッカラン ダブルカスク12年
ヨーロピアンオークのシェリー樽とアメリカンオークのシェリー樽でそれぞれ熟成したモルトをブレンド(ヴァッティング)したものが「ダブルカスク」である。どちらの樽も同じようにシェリーをシーズニングしているのだが、樽材が違えばそれぞれの熟成で生まれる香味も異なってくる。それをブレンドすることにより、シェリー樽熟成モルトの深遠さ、新たな味わいの世界を伝えている。
では、シェリー樽について。実のところ、スペインの名酒、フォーティファイドワイン(酒精強化ワイン)であるシェリーを寝かせる樽はアメリカンオークが主体である。
これには長い歴史がある。17~18世紀にかけてのアメリカ中西部一帯はフランス領ルイジアナであった。ところがフレンチ=インディアン戦争でフランスが敗れ、1763年パリ条約でルイジアナはスペイン領(~1800)となる。
ここからニューオーリンズにスペインの物資が船で大量に運び込まれるようになる。ところが当時のルイジアナにはスペイン側へ運び入れるほどの物産がなかった。船の安定性を保つためのバラスト(船の重心を下げる重し)としてアメリカンオークを積み込んだのである。加えてミシシッピ川の流木やミシシッピ川を下ってバーボンを運んできた小さな木造船(イカダもあり)を解体するとかなりのオークが入手できた(『アメリカの歌が聴こえる第26回ナッチェス・トレース』エッセイ参照』。
バラストのアメリカンオークに目をつけたのがスペイン本国のシェリー商たちである。ヨーロピアンオークよりもはるかに加工しやすく、また貯蔵中の漏れが少ない。容器としての高い機能性に注目し、19世紀初頭にはかなりの量のアメリカンオークを備蓄できたといわれている。これがシェリーにアメリカンオークが使われるようになった背景である。
さて、ウイスキー熟成に使われるシェリー樽だが、ザ・マッカランやサントリーのようにヨーロピアンオークの熟成効果に着目して使いつづけているところは稀少である。とくにザ・マッカランの実績はヨーロピアンオークのシェリー樽熟成モルトだけで香味設計された、シェリーの王道として世界に名高い「ザ・マッカラン シェリーオーク12年」が物語っている。
ザ・マッカランのヨーロピアンオークは自社管理しているスペイン北部の森からオークの木を選別して伐採し、丸太の状態で1年間乾燥させる。次に製材して樽板の状態でさらに18ヵ月間乾燥させ、スペイン南部のヘレス地区でやっと製樽となる。そしてボデガ(ワイン生産者)でシェリーが詰められる。約18ヵ月のシェリーのシーズニングを終え、その後スコットランドのザ・マッカラン蒸溜所へ搬入されるのだ。
ウイスキーのシェリー樽となるまで、なんと約6年もの年月を要している。
アメリカンオークのシェリー樽も同様な経緯で誕生している。アメリカのオハイオ州の森から樽板での乾燥まではアメリカでおこなわれ、製樽前にスペインに運び込まれる。シェリーのシーズニングも約18ヵ月かけられているようだ。
次ページではヨーロピアンオーク、アメリカンオークのシェリー樽のそれぞれの特長とともに「ザ・マッカランダブルカスク」の味わいについて述べる。(次ページへつづく)